Vol.5 No.1 2012
47/84

研究論文:シンセシオロジー論文における構成方法の分析(小林ほか)−44−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)NMRという測定法は、通常は未知成分検出や分子構造等の決定に用いられるが、この場合は既知の成分の定量的な分析に用いるという発想を逆にした考え方を採用しており、通常のNMRの使い方と全く異なる測定条件(照射パルスの遅延時間調整、オーディオフィルターの最適化、等)の探索・選択が重要な要素技術となった。また、国家標準物質の選定や、多種類の物質を校正できる仲介物質の選択が効率的なトレーサビリティ体系を構築する上での重要なポイントとなった[要件③]。一方、SIトレーサビリティについては一次測定法である凝固点降下法を妥当性検証に用いることにより担保された[要件①]。国際的には、国際度量衡委員会(CIPM)の物質量諮問委員会(CCQM)の場で標準的な測定法の一つとしての採用を働きかけ、世界的な合意が得られつつある[要件②]。供給体制としては、産総研と国立研や民間事業者(試薬、臨床検査薬メーカー)との連携(共同研究、受託研究等)によりこの手法で値付けされた標準物質のユーザーへの頒布が2008年度から開始されており、その総数もすでに100種類以上に達している。なお、この研究の全体構成は井原等の原論文[38]の図6によくまとめられている。以上の二つの例に示したように、3要件を境界条件として研究開発のシナリオと実行プロセスが組み立てられており、典型的な戦略的選択型に分類されると言える。これまでにSynthesiologyに掲載された標準・計測分野の論文のなかで、鈴木による計測技術にかかわる乾電池駆動のX線発生装置の研究[39]はブレークスルー型に対応するが、多数を占める計量標準にかかわる11件の論文はすべてこれらの3要件を踏まえており、戦略的選択型に分類されると言えよう(表1)。(6)地質分野地質分野の研究の特徴は、地質現象の総体としての理解を進展させる観点から、総合的な戦略が構成され、変化するさまざまな社会のニーズへの対応による相互作用を通じて、螺旋的に展開していくという特徴がある(図9)。過去にさかのぼる自然への理解の深さがどこまで進んだかが、産業立地、資源・環境、防災等に関する社会の対応を律速していると言っても過言ではない。長期的地震予測の例(図9中の個別戦略A)として、寒川は遺跡における液状化堆積物の発見という地質学上の「ブレークスルー」により古地震学を創設し[40]、さらに研究ユニットの個別戦略として、地質学・考古学に加え、地球物理学や工学等の異なる分野の融合により展開しており、ブレークスルー型と戦略的選択型の組み合わせと言える。こういった成果を基に、日本の活断層の履歴解明とその発生の物理モデルや強振動モデルの研究が進展し、吉岡の研究[41]に見られるように、これらの研究を戦略的に選択して組み合わせて、立地や防災に活用されつつある。このような手法は研究ユニットにより過去の津波堆積物の研究としても応用展開されており、長期的な地震発生や影響予測精度の向上に貢献している。また、土壌と地下水の汚染リスク評価では(図9中の個別戦略B)、駒井らの研究[42]に見られるように地質分野の要素技術に加え、環境科学や安全科学までを分野融合し、評価法の進展の段階に応じて社会での利用によるフィードバックをかけて、より知的基盤相互作用利用・フィードバック統合ブレークスルー利用・フィードバック利用・フィードバック分野融合物理モデル活断層履歴古地震学個別戦略A長期的地震予測個別戦略B汚染リスク評価土壌学・地下水学・環境学・安全科学国土基本情報総合的な戦略全国シームレス地質図WEB公開地域地質図地質学地球物理学地球化学…統合(分野融合)統合要素技術変化する社会ニーズ防災・環境・立地・資源地質現象の理解の進展図9 地質分野における個別戦略と総合的戦略からなる構成方法

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です