Vol.5 No.1 2012
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研究論文:シンセシオロジー論文における構成方法の分析(小林ほか)−41−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)理解された人間特性をどのようにして製品設計につなげるかについても、研究シナリオの設定が必要である。メガネフレームの研究例では、簡易な形状計測と感性的評価ができる装置を店頭に置くことで、個人に適合するメガネ枠を選定するというシナリオを採用している。一方、アクセシブルデザインの例では、製品設計に反映されるためのツールとして工業標準を採用するシナリオがある。この工業標準を参照すれば容易に高齢者対応の製品設計ができるようにしている。また、氏家らによる映像酔いが起きない動画を提供するための研究[18]においては、工業標準化を最初は目指したが、それだけではなく第1種基礎研究で明らかにした映像酔い特性を組み込んだ映像評価システムを構成した。これを映像制作者が利用して、制作した映像が視聴者に与える影響を知ってもらって、必要ならば修正してもらうこととした。こういった制作者が使えるツールを構築するために必要な要素研究を実施しており、戦略的選択による構成と言える。池田らによるカーナビゲーションシステム(カーナビ)の開発[19]も同様であり、最終的に人に使ってもらうものを構成するこの分野においては、最終的にどのようにしてユーザー(エンドユーザーあるいは製品設計者)に使われるかを想定して、それをゴールとして設定する。そのために必要な要素技術を事前に考えて、それを戦略的に選択して全体を構成することが基本的な方法となっている。この他、久保らによるIH調理器に対して感性的リードユーザーが製造者の観点とは異なる価値を作り出したというアウフヘーベン型の構成[20]、そして万博の場等でユーザーに試用を行ってもらって、戦略的選択型に螺旋型を加えたサイバーアシスト[21]があった(表1)。なお、サービス工学の理論化を扱った論文についてはここでは含めなかった。(3)情報通信・エレクトロニクス分野情報通信・エレクトロニクス分野では、エレクトロニクスやフォトニクス等のデバイス技術分野と、ソフトウエア分野では構成方法がやや異なる。デバイス分野の構成の方法論は、個々の要素技術が他の要素技術と独立しておよそ明確であり、その中に特に全体のブレークスルーとなる主要要素技術があり、それが幾つか組み合わさって技術が構成されていくという型が見られる。特徴的な例として、湯浅らによる「スピントロニクス技術による不揮発エレクトロニクスの創成」の研究が挙げられる[22]。ここではMgO(酸化マグネシウム)結晶のトンネル障壁による巨大TMR(トンネル磁気抵抗効果)が実現されたという非常に大きなブレークスルー技術に加えて、極めて特殊な結晶成長様式を用いたCoFeB/MgO/CoFeB構造のMTJ(磁気トンネル接合)素子の実現による量産技術の達成という二つ目のブレークスルー技術が重なって実用化に成功しており、これらの連続した大きなブレークスルー技術が効果を発揮した。これは図5に記したように、科学的ブレークスルーと革新的製造技術が連なった、連続的ブレークスルー型と言える。こういったブレークスルー型の構成は佐藤(証)らによる暗号モジュールの研究開発でも見られる[23]。また前述の西井らによる高機能光学素子作成では、これまでもガラスの加工に用いられていたガラスモールド法に、高温での加工が困難であったインプリント法を組み合わせて、極めて高精度な高機能光学素子を実現したものであり、今まで両立が困難で二つの方法を組み合わせたアウフヘーベン型の典型であると言える[4]。また荒井によるSiC(炭化ケイ素)半導体のパワーデバイス開発[24]では、実用化するための要素技術と課題を抽出し、それらを個々に実現して統合し実用技術にまで至らせるプロセスが記されていて興味深い。構成の型としては、戦略的選択型と言えるであろう。一方、ソフトウエア分野やシステム分野の論文では、要素技術の選択とその統合が行われる過程で実社会との相互作用が大きな鍵となる。田中のGridシステムのようなミドルウエア活用のシステム構築[25]にあたっては戦略的選択的な要素技術の選別と組み合わせが示されており、ハードウエアシステムとも共通して比較的システム構築が明確である。このような戦略的選択型の構成は6件の研究開発で行われていた。本村の研究[26]では、ベイジアンネットを人間行動のモデル化に用い、それを中核技術としてさらにセンシング技術やインタビュー技術を付け加えていくという意味でブレークスルー型ではあるものの、ユーザーとの相互作用が「社会循環」(持丸の指摘[26]、図6)として大きな意義をもっているという点で、ブレークスルー型と螺旋型の組み合わせによる構成と言うことができよう。佐藤(雄)らによるインテリジェント車椅子の研究開発においては、全方向ステレオカメラがブレークスルー技術であるが、これをコアにして他の技術を戦略的に選択して電動車椅子を構成するとともに、ユーザーに試用してもらった結果を開発にフィードバックするという3つの構成の組み第2世代TMRヘッドCoFeB/MgO/CoFeB構造のMTJ素子単結晶MgO-MTJ素子スピントロニクス技術による不揮発エレクトロニクス重要要素技術1重要要素技術2量産技術の開発新材料・新デバイスの開発実用技術統合技術図5 情報通信エレクトロニクス分野におけるブレークスルー型の構成方法
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