Vol.5 No.1 2012
42/84

研究論文:シンセシオロジー論文における構成方法の分析(小林ほか)−39−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)環境エネルギー分野においては、必要な要素技術を統合して社会ニーズを満たすことを目指すことから、具体化されたニーズに対応するための構成が不可欠である。最初の段階で戦略的選択を行って要素技術を特定して、それがこれまでの研究開発の成果やそれを目的に合わせて改良して用いる場合には、全体として戦略的選択型のシナリオをとることができる。このタイプの構成が3件の論文にみられる。一方、低環境負荷技術を構築する場合のように、要素技術の中に実現に大きな課題があるものが含まれている場合には、それに対するブレークスルー技術が必要となり、それが実現できれば社会ニーズに応えられることになる。このような場合には、全体としては「戦略的選択型+ブレークスルー型」の構成というシナリオで進めることになり、このような例は3件あった。この他、アウフヘーベン型が2件、ブレークスルー型が1件見られ、その分類結果を表1に示す。(2)ライフサイエンス分野ライフサイエンス(バイオテクノロジー)分野における特徴的な構成の方法として、循環的発展が挙げられる。諏訪らはバイオインフォマティクスにより創薬ターゲット遺伝子の網羅的機能解析技術を開発した[10]。2000年から始まった研究では、第1種基礎研究として遺伝子同定・機能解析ツール等の要素技術開発が、第2種基礎研究として要素技術の組み合わせによる遺伝子同定・機能解析パイプラインの構築が、製品化研究として細胞膜受容体GPCRの網羅的データベースの2003年の公開までが一連の本格研究となり、コア技術が構成された。一方でこのコア技術は次の発展のための第1種基礎研究となり、新たな機能予測プログラムの開発として結実した。さらに、この技術はヒト以外の生物への応用への第1種基礎研究として次の発展に寄与している。この間、コア技術に対しては、バイオインフォマティクス研究者、実験研究者の両面からのフィードバックがかかり、これによって社会への広まりが拡大して、循環的により大きな本格研究に順次発展するかたちで長期熟成されてきている。同様の循環的発展は、近江谷らの生物発光蛋白質を用いた本格研究でも見られる[11]。近江谷らは生物発光に関する知的好奇心から出発し、発色光の異なるホタルの発光蛋白質を発見した。そして、この発光蛋白質を生物機能検査のためのブレークスルー技術として展開することにした。そのために、哺乳類細胞でも発光するように遺伝子構造を改変して、細胞内の複数の遺伝子発現を同時に検出する技術を開発した。哺乳類細胞で使えることから、開発した技術は企業との共同研究により、化学物質等の人への影響を細胞レベルでスクリーニングするための遺伝子発現検出キットとして製品化に結びついている。この過程は一見すると第1種基礎研究から直ちに製品化につながった比較的単純な本格研究のように見えるが、第2種基礎研究による新しいコンセプトの正しさの実証、企業との共同による製品化、製品の社会受容というそれぞれの段階での努力の賜物である。また、近江谷らはここから再び第1種基礎研究に回帰し、さらに多色化を目指す等、コンセプトをさらに大きく発展させることの重要性を強調している。全体としては、ブレークスルー型構成の後に循環的発展をとるというシナリオと言える。このような循環的発展は他分野でも見られるが、バイオ産業では、特に他の産業にはない特徴に由来していると考えられる。ハーバード大ビジネススクールのゲイリー・P・ピサノ教授は、バイオ産業をサイエンスに強く軸足を置くビジネスと位置付け、以下のような分析をしている[12]。第一に、バイオ産業はサイエンスに軸足があるにも関わらず、基盤となる学問である生物学は物理学や化学に比べてはるかに成熟しておらず、基盤テクノロジーの不確実性が極めて高いことが特徴である。例えて言えば、使用環境のわからないCPUをつくるようなものということである。バイオ産業の第二の特徴としては、「すり合わせ型」である。パソコン等は問題をパーツに分解し、パーツごとの最適化が可能な「組み合わせ型」と言われる。これに対して自動車等は問題をパーツに分解不可能であり、問題領域を横断した同時最適化が必要な「すり合わせ型」と言われる。バイオ産業は後者の「すり合わせ型」であるが、第一の特徴と組み合わせると、つくってみるまで走るかどうかわからない自動車をつくるようなものと言えよう。バイオ産業では、このように製品化してみないと使えるかどうかわからない、という不確実性が他分野よりも大きいため、まず市場で小さGPCR: Gタンパク質共役型受容体(細胞膜にある創薬ターゲットタンパク質)遺伝子同定・機能解析ツールGPCR遺伝子特徴の知見大規模計算機利用技術SEVENS(GPCRの網羅的DB)の公開遺伝子同定・機能解析パイプラインの構築製品化大きな本格研究に展開するためにまず小さな本格研究が必要第2種基礎研究第1種基礎研究図3 ライフサイエンス(バイオテクノロジー)分野における螺旋型の構成方法

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です