Vol.5 No.1 2012
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研究論文:シンセシオロジー論文における構成方法の分析(小林ほか)−38−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)いう社会ニーズに対しては、リスクの大きさを共通指標で表すことが必要になる。しかし、必要な要素データはこれまでのリスク評価で利用されてきたものでは不十分であることから、こういった新たな社会ニーズからブレークダウンして必要な要素データを決定し、これを既存データから推定する方法を検討した。このようにして得られた要素を再統合することによって共通指標を基にしたリスクの算出を可能にしている[7]。したがって、社会ニーズに適した要素技術を戦略的に選択して統合する方法を採っており、前章で述べたように戦略的選択型の構成と言うことができる。環境負荷物質の低減を図る技術開発の例としては、葭村らによる輸送用クリーン燃料の製造触媒の開発がある[8]。ディーゼル排ガスの無害化のためには、原料である軽油中の硫黄成分の大幅な低減が必要という社会的ニーズがある。そのためには、脱硫触媒を高性能化する必要があるが、原著者らはこのためのブレークスルーポイントは触媒調製技術にあると同定し、この技術に必要な複数の要素課題にブレークダウンして共同研究者(機関)と分担を明確にしている。担当課題をさらにブレークダウンして、鍵となる要素技術を化学的側面とエンジニアリング的側面から検討し、重要要素技術としてラボレベルの調製法を完成させ、触媒メーカーとの共同研究により工業化を実現した。したがって、社会ニーズからブレークダウンした必要な要素技術が、さらに細かな要素技術の集まりになった多段的構造をもっていると言える。下位の要素技術をブレークスルー型の研究で解決した上で統合化していくので、全体のシナリオとしては「戦略的選択型+ブレークスルー型」の構成であると言える(図2)。この型に属する他の例としては、鈴木らによる「コンパクトプロセスの構築」[9]がある。化学工程からの環境負荷物質の排出抑制という社会ニーズに対し、水や二酸化炭素の超臨界流体を有機溶媒の代わりに利用するという、理論的には可能であるはずだがなかなか実用化されていない技術を、個々の要素技術にブレークダウンして再検討を行い、緩慢な反応のため最適条件に達するまでに余計な反応が起こっていることを見い出し、急速に最適条件に達するための急速加熱・加圧法を重要な要素技術として開発し、他の周辺要素技術とともにプロセスを構成したものである。また、デチューニングというあえて理想状態からずらすことをブレークスルーとして、最適状態を作り出すことができている。工業化の観点からのフィードバック新技術の提案触媒の製造面での課題触媒の性能・利用面での課題周辺技術要素b周辺技術要素a重要技術要素A(触媒調製工程における制御技術)下位の統合技術ニーズに合っているかの検証ニーズからのブレークダウン(これまでの製造プロセスを利用できる新触媒の開発)統合技術要素技術C要素技術B要素技術A(サルファーフリー軽油の実用化)社会ニーズ図2 環境・エネルギー分野の戦略的選択+ブレークスルー型の構成方法表1 分野ごとの構成の類型分類70148212621地質121標準計測1424ナノテクノロジー・材料・製造12112情報通信・エレクトロニクス711ライフサイエンス(人間生活技術)10124ライフサイエンス(バイオテクノロジー)9301環境・エネルギーブレークスルー+戦略+螺旋戦略的選択+螺旋11アウフヘーベン+戦略ブレークスルー+戦略211ブレークスルー+螺旋螺旋62112アウフヘーベンブレークスルー3431156423戦略的選択

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