Vol.5 No.1 2012
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研究論文:マグネシウムおよびその合金中の不純物酸素分析手法(柘植ほか)−33−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)品ではなく板材等の素材であり、酸素量等の品質保証への要求が高いこと等が、酸素分析手法に強い興味を示し、独自に追試を行ったことと関係していると推測された。このように韓国は近年Mgの素材供給国としての位置付けを明確にしてSC5の中でも発言力を増しつつあることから、この機会をとらえて技術的な協力関係を構築することは、その後の規格案提案プロセスで有利に働くと考えられた。さいわい、この時点では3.3で述べた装置や型番の違いにより「印加電力-黒鉛るつぼ温度」の関係が異なっていることを把握していた後であったので、韓国に対してその問題の原因と解決策を提示することができた。2011年2月には日本マグネシウム協会の調査団が韓国を訪問する機会があり、韓国側からは我々が提案した手法で温度校正を行うことで安定した分析値が得られるようになったこと、独自の試料を用いて荷電粒子放射化分析との比較を行ったところ良好な結果が得られたこと等の情報がもたらされた。2011年5月にロンドンで行われたISO/TC79/SC5の会議においては、黒鉛るつぼの温度校正の方法と上記のような韓国との協力について報告したところ、国際幹事から「良く検討されているので新規提案を歓迎する」というコメントが得られた。このように、ISOの専門委員会において早めの意思表示と手法の開発状況を逐次報告することによって、建設的な議論を行う雰囲気が醸成され、幹事国やその他のPメンバー国注4)に対しても「大きな摩擦なく規格化が可能」というよい印象を与えることができたと考えている。黒鉛るつぼ温度の校正方法も含んだ分析法の素案は日本マグネシウム協会の標準化委員会の審議を経て、2011年6月にISO/TC79/SC5に提案され、現在、NWIP(新業務項目提案)として3ヶ月間の投票に付されている。5 今後の展開分析法や評価法の標準化という業務は、すでに開発され使用されている方法を基本として、各国における条件の違いを調整しながら統一的方法を規格化することが多く、我々の経験したような基本方法の開発から出発し、それを普及させる目的で規格へ提案するという一貫した取り組みはまれなケースと思われる。分析・評価に関するフロンティア技術が普及して広く使われるようになることは、計測分析技術開発に携わる研究者や技術者の夢である。規格化はフロンティア技術を普及させるために必要不可欠であると考える。この分析法は、現在、経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポートインダストリー)の「耐熱・難燃性マグネシウム合金鋳造によるパワートレイン耐熱部材の開発」の中で耐熱・難燃性マグネシウムの製品管理技術として応用がなされようとしている。Mgを輸送機関等に使用する上で大きな問題となる難燃化に関しては、カルシウムを添加した合金が産総研で開発されている[7]。また、高温部材として使用するための耐熱化については、希土類元素やケイ素の添加が有効であることも公知である。しかし、これらの添加金属は、いずれも酸素親和性が高い金属であり、その添加により合金中の酸化物の増加を伴う。さらに部材化技術として鋳造はコスト的に優れた方法であるが、鋳造工程では作製した部材に湯道や押し湯と呼ばれる付属部分が生じ、それらの鋳造用の溶湯への再利用はコスト上昇を抑えるために必要不可欠である。この再利用材の再溶湯化も酸化物増加の原因となる。この分析法のような工場内で工程中の材料の酸素量を測定できる方法は、工程管理技術・品質管理技術として強いニーズがある。このサポートインダストリー事業は企業の製品開発を支援する目的の事業であり、製品が普及するのに合わせて、この分析法も産業内に普及し定着していくものと期待される。現在は、この手法を品質管理技術として高度化することを目指した研究開発に取り組んでいる。謝辞この研究の一部は、経済産業省・NEDOの委託研究「マグネシウム地金・合金中酸素分析方法の標準化」の下で行われたことを記すとともに、同プロジェクトの遂行に御協力いただいた運営委員会委員および日本マグネシウム協会に対して謝意を表します。注1)2,400 W印加時の黒鉛るつぼの温度は後出の図13(a)との対比から約2,000 ℃と見積もられる。注2)比較する分析法が検証したい分析法と原理的に大きく異なる場合に両者の分析値が近い値を示すなら、その分析値を妥当と見なすことができる。これは、比較する複数の分析法が真値に対してそれぞれ誤差をもっていた場合でも、原理的に異なる方法であればその誤差の影響が同じになる可能性は大変低いため、互いに近い分析結果が得られるなら誤差の影響は少なく、得られた分析値は真値に近いものと考えられるからである。(対応するJIS規格は「JIS Q 0034 : 2001 標準物質生産者の能力に関する一般要求事項」)注3)ISO規格案はその技術的内容に対応した専門委員会(TC)またはその下部組織となる分科委員会(SC)で審議される。ISO/TC79/SC5とは、TC79の5番目の分科委員会SC5を意味し、その名称は、“Magnesium and alloys of cast or wrought magnesium”(マグネシウムおよびその鋳鍛造合金)である。なおTC79の名称は“Light metals and its alloys”(軽金属及びその合金)である。注4)ISOのTCおよびSCに参加する国々は、規格案の票決など委員会業務に積極的に参加する義務を負うPメンバーと、オブザーバーとしての業務を行うOメンバーに分けられる。ISO/TC79/SC5のPメンバーは、日本、中国、韓国、ドイツ、英国、イタリア、ロシア、スペイン、ルーマニアの9カ国で、幹事国は中国となっている。

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