Vol.5 No.1 2012
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研究論文:マグネシウムおよびその合金中の不純物酸素分析手法(柘植ほか)−30−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)3.1 分析値の妥当性の検証新たな分析法を開発した場合に、分析値が精確に測定試料中の分析対象の含有量を表しているかどうかを確認するのは当然のことであるが、開発した分析法が新規性の高いものであるほど実際の確認は困難なものとなる。例えば、その分析対象の含有量が明らかな認証標準物質が頒布されていれば、その標準物質を分析し分析値が認証値に近い値となるかどうかを確認すればよい。しかし、これまで測ることが困難とされていたものを対象とする分析法の場合は、当然のことながらそのような認証標準物質は存在しない。このような場合には、ISOの発行している文書「ISO Guide 34 General requirements for the competence of reference material producers」注2)に記述されているトレーサビリティ、バリデーション、データの評価の考え方に準拠し、測定可能な他の方法で得られる分析値との比較によって妥当性を検証することが広く行われている。ここでは比較対象として、まず「フェノール溶解法」を選んだ。これはMgがフェノールと反応してフェノキサイドを生成して溶解するのに対して、Mg中の酸化マグネシウムはフェノールに不溶であることを利用して、Mg中の酸化マグネシウムを定量する方法である。その操作の概容を図9に示す。フェノール溶解法では適用対象は試料が溶解の容易な切粉状試料に限定される。また、溶解や希釈に用いるフェノールやメタノール中に水分を含む場合は生成したフェノキサイドが加水分解して水酸化マグネシウムを形成する。これは酸素含有量を過剰に見積もることになるため、フェノール溶解法は湿度に敏感である。この湿度による影響を除去するには湿式分析の煩雑な操作に習熟することが必要なことから、部材製造現場にも適用できる標準的な分析手法としては適当ではない。図10に種々のMg試料をIGF-IRA法とフェノール溶解法で分析した結果の比較グラフを示す。分析値と酸素の含有量との間には相関が得られているが、フェノール溶解法の結果が幾分高めになっている。この原因としては上述の水分の影響が考えられる。次に比較対象として用いたのは、荷電粒子放射化分析法である。この方法は、測定試料にヘリウム原子核(α線)を照射し試料中の酸素を放射性のフッ素原子に放射化した後、そのフッ素原子の放射線量から試料中の酸素量を求める分析法である。荷電粒子放射化分析法は加速器を必要とするため、現場で日々の分析には用いることができないものの、合金開発の段階等ではMg等の酸素含有量の測定には比較的よく用いられており、豊富な実績を有する分析機関も複数存在する方法である。荷電粒子放射化分析法の概容を図11に、その結果を表1に示す。用いた試料は純Mgの押し出し材(No.1)と、その押出材を大気中で厚み0.2 mmの切粉に加工した後に錠剤に成型したもの(No.2)、さらにその切粉を湿度100 %のデシケーター中に3日間放置して酸化を進めた後に錠剤に成型したもの(No.3)である。No.1試料は酸素濃度がIGF-IRA法の定量下限に近いために平均値に対して大きな標準偏差となったが、No.1およびNo.2試料において、IGF-IRA法と荷電粒子放射化分析法の分析値は標準偏差の範囲内で一致した。No.3試料の分析値はIGF-IRA法の分析値が荷電粒子放射化分析法による分析値より幾分低いものとなった。これは、荷電粒子放射化分析法は、試料中の酸素は水分等であってもすべて検出されるのに対して、IGF-IRA法はその分析原理からわかるように安定な酸化物となっている酸素のみを定量しているためであると考えられる。特にNo.3試料は水蒸気により酸化を進めたために安定な酸化物となっておらず、水分や水酸化物が含まれていたものと考えられた。これらの事情を勘案すると、水分の影響を受けていないNo.1およびNo.2試料では荷電粒子放射化分析法とIGF-IRA法の分析値は標準偏差の範囲で一致しているとみなしてよく、後者の分析値の妥当性は確認されたと言える。不活性ガス融解法(wt%)0.20.150.10.050.10.150.20.0500フェノール溶解法(wt%)A1A2ArbAox1Aox2B1B2C1C2図9 フェノール溶解法の概念図図10 不活性ガス融解法とフェノール溶解法の分析値との関係 塩酸で溶解テフロンフィルター(0.2ミクロンテフロンフィルター)ろ過定容希釈してICP-OESでMg量を測定(沸点182 ℃)フェノールで煮沸MgOMg
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