Vol.5 No.1 2012
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研究論文:マグネシウムおよびその合金中の不純物酸素分析手法(柘植ほか)−27−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)酸素をるつぼ材の炭素と反応させることによって還元し、一酸化炭素として抽出する。さらに、ヘリウム気流中の一酸化炭素濃度を赤外線吸収検出器で計測・積算することで試料中の酸素を定量する。分析に利用している反応は、炭素による試料の還元反応であり鉄鉱石から鉄を精錬する反応と同じである。このことは、この手法が鉄鋼産業で考案され発展してきた分析法であることに由来する。すでに確立されているこの方法によって、Mg中酸素の測定が可能となれば、Mg中の酸素分析に対するニーズに速やかに応えることが可能であるが、Mgの沸点が低く酸素親和性が高いために、一般にはこの方法はMg中の酸素分析には適用できないとされてきた。図3に酸化マグネシウムを黒鉛るつぼ中に入れ、印加電力を増加させながら一酸化炭素の抽出量をモニターした結果(昇温不活性ガス融解プロファイルと呼ぶ)を示す。2,400 W付近から一酸化炭素の抽出が始まっているが、この印加電力に対応する黒鉛るつぼの温度は約2,000 ℃と見積もられ注1)、Mgの沸点である1,090 ℃よりもはるかに高い。すなわち、Mg中に存在する酸化マグネシウムが炭素と反応を始めるよりも先に、より低い温度で母材であるMgが沸騰をはじめてしまうことになる。試料が沸騰すると、その発生蒸気の力で溶融した試料がるつぼから飛び出し、分析は困難となる。我々はその解決法として、試料中の酸化物を試料から分離して、分離後に酸素分析を行うという「多段階昇温法」を新たに考案した。その考え方のヒントは鉄とMgの精錬法にあった。IGF-IRA法は、前述のように炭素による試料の還元反応を利用している。そしてその反応は、反応生成物である二酸化炭素あるいは一酸化炭素が気体として反応系から脱離する不可逆反応である。この不可逆反応の反応後の液相(金属)を得るのが鉄の精練であるのに対して、反応後の気相(一酸化炭素)を得るのが酸素分析であると考えることができる。Mgの代表的な熱精練法であるピジョン法では、原料の酸化マグネシウム鉱物は、鉄-ケイ素系合金(フェロシリコン)の粉末と混合され加熱される。酸化マグネシウムの酸素がフェロシリコンに移動すると金属となったMgが蒸発して反応系から除かれるため、この反応は逆反応を起すことなく進行して酸素はフェロシリコンに移動し、蒸発したMgは低温部で凝固して回収される。つまりこの製錬工程では、不可逆反応の気相のMgの方から金属が得られていることになる。そこで我々は、酸素を測定するためには逆に酸素が残留する液相の方を測定すればよいと考えたわけである。何らかのMgより沸点の高い金属を酸素の受容体としてMg試料と混合した後、Mgを蒸発させれば試料中の酸素は受容体金属に残留するはずである。そして、Mgと分離された酸素は受容体金属中の酸素として測定できることになる。研究開始当初は、Mg試料中の酸化物の酸素を酸化還元反応によって受容体に移す必要があると考えていたため、アルミニウムのような酸素親和性のより強い金属を受容体候補として検討していた。しかしその後、試料中の主たる酸化物と考えられる酸化マグネシウムを、そのまま受容体に移してもかまわないことに気づき、酸素受容金属としてスズを選択することとした。スズは融点が232 ℃と低い一方、沸点は2,602 ℃と高いために融解したMgと液体状態で混ざり合い、酸化物の受け取りが容易に進行することが期待される。また、スズは不活性ガス融解では浴金属として使用されることの多い金属であり、酸素含有量の低いものの入手が容易であることも選択の理由となった。一方、アルミニウムは通常の不活性ガス融解で浴金属として使用されることはないため、酸素含有量の低いものの入手は困難である。図4に、今回開発した、酸素受容金属としてスズを用いる分析方法の概念図を示す。Mg0.3 gをスズ0.5 g と約900 ℃で共融させた後、1,000秒以上の時間を掛けて穏やかに2,000 ℃まで昇温すると、るつぼの底の残留物は0.5 gを幾分下回る重さとなった。2,000 ℃におけるスズの蒸気圧は数kPaであることから、若干のスズの蒸発が生じてスズの重量が投入量を下回ったものと考えられる。また、こ図3 酸化マグネシウムの昇温不活性ガス融解プロファイル02000 040 2400 3600 4800 6000 80 120 160 200 240 280 320 360 400 1200 1000 3000 4000 5000 6000 一酸化炭素抽出速度/ 任意単位 測定時間 / s印加電力 / W 2000 ℃ 900 ℃400s Sn 0.5 g Mg 0.3 g 900 ℃ 2000 ℃ 1000s 2500 ℃ CO MgOMgOMgOMgO+CMg+CO MgSn SnMg検出器へ図4 多段階昇温法によるマグネシウム中酸素の分析手法の概念図
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