Vol.5 No.1 2012
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研究論文:モノピボット遠心血液ポンプの実用化開発(山根ほか)−21−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)のオリジナル技術は以下のとおりである。1)「モノピボット軸受」は我々が世界に先駆けて提唱した機構名称であり[2]、モノピボット軸受でのみ溶血、血栓、摩耗が起き、これらは接触面積が支配することを理論的・実験的に立証した[3]。しかもポンプは、血液適合性および耐久性とも、4週間以上の連続使用に耐えることを立証した。2)「可視化実験」で血液適合性を定量的に実験できる評価法を提唱した[5][6]。我々の成果発表の後、国際会議では可視化実験の研究が増え、人工心臓のISOでもANNEXとして流れの可視化が採用された。また後述するように我々の実施した可視化実験データが、FDA承認申請や国内の薬事承認申請に使われ承認を受けた。3)「模擬血栓試験」では、動物実験前段階で動物実験に近い抗血栓性が評価できる試験法として世界で初めて開発した[7]。この試験法はまだ研究段階であるが、初期の動物実験を代替できるものであることから、企業からの受託研究が相次いでいる。一方、企業の製品化技術の特徴は以下のとおりである。1) Oリング等を使用しない、ケーシング組み立ての単純化により低価格化。2) 不要な磁石やセラミックス部品を省き、軸受にステンレス球を使用して低価格化。3) ラジアル磁束式、つまり磁石を水平対向型とした駆動装置を自社製作。この結果、これまでの316万円の空気駆動型人工心臓に匹敵する機能を、約6万円の遠心ポンプで実現した。なお産総研内には特許実用化共同研究という制度があり、実施契約の早期締結、ビジネスプランの明確化等により、本品製品化に大変役立った。5 製品としてのアウトカム2002年から共同研究を始めた泉工医科工業(株)が、2008年末に体外循環ポンプ「メラ遠心ポンプ」(型式HCF-MP23)を薬事申請し、2011年1月に製造販売承認を取得した。同年4月から販売を開始し、臨床使用数は2011年11月末の時点ですでに100例を超えている。承認範囲としては「心臓血管外科手術および補助循環用の体外循環用遠心ポンプ」であり、型式名に「MP23」とあるのは産総研提唱のモノピボットの頭文字であって、その貢献が名称に表れている。音が静かで摩耗が少ないことが特徴である。開発には9年間を要したが、我々の開発チームの場合、影響要因の多い動物実験を最小限に抑え、工学的実験によって得られた性能データの蓄積を多く行い、企業の設計根拠やユーザーへの説明資料が数多く残ったことが特徴である。また、申請範囲の6時間を超える4週間程度の耐久性と血液適合性の可能性を確認しており、近い将来には長期人工心臓埋め込みまでのつなぎという薬事上の新ジャンルの治療にも使用できると期待される。産総研では、いち早く泉工医科工業(株)との共同研究により長期用までのつなぎの補助循環ポンプの開発に参入したが、病院側との医工連携によりこれからさらに臨床確認、適用拡大を行う計画である。6 今後の展開-産業界への貢献我々が研究開発したモノピボット遠心ポンプを基にして、一つの製品を世に出したばかりでなく、その評価技術を他機関の申請・製品化にも提供している。さらに経済産業省/厚生労働省のもとでの開発・審査に関するガイドライン策定により類似医療機器の早期承認への道筋をつけることにより広く産業界に貢献している。2010年12月には植え込み型補助人工心臓2機種が承認されたが、(株)サンメディカル技術研究所のEVAHEARTに対しては、共同研究による流れの可視化実験データの提供を行った。それらは薬事申請およびFDAのIDE申請に使用されいずれも承認を得ている。またテルモ(株)のDuraHeartに対しては、薬事審査の迅速化を目的に実施されている医療機器ガイドライン策定事業により、在宅医療まで含めた開発・審査における評価指標のコンセンサスを構築し、審査期間を短縮し早期承認に大きく貢献した。さらに、国内ばかりでなく海外からも受託試験の依頼が来ている。今後とも、独自の開発技術と評価技術をもって、国の内外を問わず産業界に広く貢献していく計画である。7 医工連携を志す研究者へこれまでの我々の経験から、医工学の実用化研究に必図6 モノピボット遠心ポンプの動物実験東北大学にて左心バイパス外付け形態で4週間の実施
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