Vol.5 No.1 2012
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研究論文:モノピボット遠心血液ポンプの実用化開発(山根ほか)−18−Synthesiology Vol.5 No.1(2012)発機運が高まっていた。シールレス方式のなかで、回転羽根(インペラ)を1点支持にする新機構「モノピボット遠心ポンプ」[2](図1)を提唱して特許を取得して、筑波大学臨床医学系との共同研究を進めた。これまでは、回転羽根車を貫通軸と二つのボールベアリングで支えるポンプが使用されていたが、シール部の血液漏れから溶血を起こす構造になっていた。貫通軸をなくして2点のピボット軸受で支えるポンプも使用され始めていた。そこで我々は、コマのように1点支持で回転する機構を提唱した。接触面積が減り溶血が減ると期待されたからである。この医工連携で、特に臨床サイド(筑波大学臨床医学系 筒井達夫教授)から強く助言されたのは、むやみに動物実験を行うのではなく、まず実験室で工学評価(in vitro試験)によって科学的エビデンスを獲得してから次の動物実験に進むという、エビデンス・ベースト・メディシンの考え方であった。ちょうど1995年から始まったNEDO体内埋め込み型人工心臓プロジェクトのもとで、体内埋め込み型補助人工心臓の開発を当面の目的として研究を進めた。まずポンプモデルの可視化実験により、考案した遠心ポンプの設計検証を反復し設計改良を進めた。透明アクリル製3倍模型を用い、模型と同一屈折率(1.49)の64 wt%NaI水溶液(比重1.9)を作動流体とし、およそ同一比重の銀コーティングガラス粒子(平均粒径10μm、比重1.4)をトレーサ粒子として、連続光Arイオンレーザー光シート(出力4W)で照明し、高速ビデオカメラ(Phantom)で撮影した画像を、面内速度については4時刻画像にわたって軌跡の滑らかさを評価する「4時刻粒子追跡法」で、面外速度については軌跡が照明面外に抜けるため、4時刻でなく3時刻に緩和して「3時刻粒子追跡法」で解析した。遠心ポンプでは通常、背面の流体が交換しない構造であるため、血栓防止のために羽根上下面に貫通孔を設け血液循環させる孔(ウォッシュアウト・ホール)を設けることが多い。実験結果により孔を分散させるよりも小径で集中化する方が、高速旋回流を中心にまで誘導できピボット側面の洗い流しが優れていることを立証した[3](図2)。またポンプ全体の血液適合性を支配するモノピボット軸受機構に関して、接触面積が小さいほど血球破壊(溶血)が少ないことを、牛血を使ったin vitroの溶血試験で立証した[4](図3)。これら可視化実験および溶血試験のエビデンスをそろえて、筑波大学との動物実験で改良前モデルと改良後モデルの比較を行い、間違いがないことを立証した。3 開発目標の再設定と臨床ニーズこのように医工連携で動物実験まで共同研究を進めていたところに、2002年から製造販売企業である泉工医科工業(株)が製品化を希望して共同研究に加わった。医療機器製造会社は概して中小企業ないし中堅企業が多いこともあり、動物実験で開発技術が使えることを見定めてからでないと開発に参加しないことは、開発リスク回避の観点からはごく自然な傾向であると考えられる。また当時、遠心ポンプを開発していたチームのなかで、企業のかかわりが弱いのは産総研チームであったことも理由と考えられる。この共同開発が始まった時点で、下記の根拠に基づいて目標修正が行われた。製品開発目標は、工業技術院・NEDOが目指した体内埋め込み型補助人工心臓ではなく、企業提案により4週間程度使用できる体外式の補助循環用遠心ポンプとし、我々の提唱の「モノピボット遠心血液ポンプ」を採用することになった。現在、心臓血管外科手術および補助循環に使用できる図2 抗血栓性向上のための流れの可視化による貫通洗浄孔の洗い流し効果比較可視化実験動物実験結果(d) 6 mm ホール(c)7 mm ホール(b) 8 mm ホール(a) 9 mm ホールImpeller Pivot Rear Casing Rear Casing Rear Casing Rear Casing Rear Casing Rear Casing Rear Casing Rear Casing Impeller Pivot Pivot Impeller Impeller Pivot φ50

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