Vol.4 No.4 2011
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研究論文:微生物変換による活性型ビタミンD3の効率的生産(安武ほか)−229−Synthesiology Vol.4 No.4(2011)執筆者略歴安武 義晃(やすたけ よしあき)2004年北海道大学大学院理学研究科博士後期課程修了。北海道大学大学院理学研究科産学官連携研究員を経て、2005年4月より産業技術総合研究所ゲノムファクトリー研究部門研究員。2010年4月より、生物プロセス研究部門研究員。博士(理学)。現在、この論文で記載したVD3水酸化反応系の他、新規抗生物質の生合成酵素や医療診断酵素等有用機能タンパク質の構造機能解析と高機能化に向けた研究に取り組んでいる。この論文では、微生物変換を担うタンパク質全般の構造学的研究および機能解析、機能改変を担当した。田村 具博(たむら ともひろ)1993年徳島大学医学研究科生理学系専攻修了。学術振興会特別研究員を経て同海外特別研究員として1994年よりマックスプランク生化学研究所構造生物学部門にてポスドク。2000年工業技術院北海道工業技術研究所(現産業技術総合研究所)入所。2002年北海道大学大学院農学研究科教授併任。2011年産業技術総合研究所生物プロセス研究部門遺伝子発現工学研究グループ長。北海道大学大学院農学院客員教授。博士(医学)。現在、ロドコッカス属放線菌を多目的用途に使用可能な発現プラットフォームの開発を行なっている。この論文では、VD3水酸化反応全般における研究立案と総括を行った。査読者との議論議論1 全体的なコメントコメント(中村 和憲:産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門)論文全体として、具体的な反応系が明示されていないと思います。また、これまでの手法の効率やコストの具体的な数値も明示されていないため、この研究によってどの程度の生産性のアップやコスト削減が可能になったのか定量的な判断が困難です。回答(安武 義晃、田村 具博)ご指摘いただいた反応系に関する説明をこの論文へ追記いたしました。しかし、この反応系は現在実生産されている技術であり、企業の秘密情報となっております。よって生産効率等の具体的情報はいかなるものも開示することができません。現時点で記載できる範囲での追記・修正を行いました。 議論2 具体的な生産方法の明示コメント(中村 和憲)変換速度に関する記述の中で、これまでの手法では、微生物の生育速度と酵素の反応速度が遅いことが問題点として挙げられていますが、具体的な生産法が記載されていないため、どの段階がどの程度問題なのか理解することが困難です。たとえば、微生物を培養した後に静止菌体を使って変換するのか、微生物を増殖させながら変換反応を行うのか等、具体的な生産方法をもう少し詳しく記述して下さい。回答(安武 義晃、田村 具博)議論1でも述べたように、現在の活性型VD3生産系に関する諸情報は非公開であるため、直接数値を用いた比較について記載することが困難であることをご了承いただければ幸いです。記載できる範囲での修正・追記を致しました。議論3 実用化における今後の課題質問(赤松 幹之:産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門)この研究によって、非常に生産効率が高い生産方法を開発したとありますが、「4.今後の展開と課題」において、電子伝達のさらなる効率化を目指すと書かれています。さらなる効率化が必要なのはどのような理由によるのでしょうか?また、これに関連して、この研究は日本マイクロバイオファーマ(株)との共同研究ということですが、実際の製品の生産に使われる道筋ができているのか、製品製造にはさらなる研究開発が必要なのでしょうか。これのバリアになっているのが電子伝達効率なのでしょうか。それ以外にも障壁があるのでしたら、記載していただけると、成果の位置付けが明確になると思います。回答(安武 義晃、田村 具博)この研究開発は、既に実用化されているP. autotrophicaを用いた物質生産法をさらに洗練された効率的なものにしようという取組みです。進化工学および立体構造に基づく酵素の改良、および生物種の変更によってその生産性は大きく向上しました。しかし、変異を導入することで活性が向上した酵素の熱安定性は低下しており、細胞内に大量に蓄積させることができないという問題も明らかになっています。そこで、酵素の安定性を維持したまま活性を高めるための方法として、P450に対する電子伝達の効率化が必要だと考えており、VdhとAciB、Cの系において改良する余地があると推察しています。電子伝達効率の高度化が達成されることで、現在の生産効率をさらに超えることが可能になると考えられます。一方、私たちが開発したR. erythropolisによる反応系を実生産に用いる場合の障壁は、生産効率の問題ではなく、むしろ組換え微生物を用いる点だと考えられます。企業では現在、育種した菌株を用いており、組換え微生物による生産は行っておりません。使用する菌の種類を変更し、かつ組換え微生物による生産系を立ち上げるには、安全試験をはじめとする各種手続きが必要になりますし、またそのようなプラントを導入するための設備投資が必要になります。活性型VD3の市場はさらに拡大することが見込まれており、近い将来私達が開発した技術を用いた生産が可能になることを期待しています。コメントに対してこの論文を修正いたしました。議論4 生産プロセスにおける酵素高活性化の意義コメント(中村 和憲)酵素の高活性化において酵素そのものの活性の増加が記載されていますが、この活性の増加が実際の生産プロセスにおいてどの程度有効であるのか、ある程度の説明が必要だと思います。最終的にコストをどの程度下げることにつながるのか等イメージできるとよいです。回答(安武 義晃、田村 具博)実験室レベルでの解析では、酵素の高活性化あるいは酵素の細胞内蓄積量の増加が達成されても、活性型VD3の生産量を劇的に改善するには至っていません。それは、VD3が脂溶性物質であるが故に、水溶性分子に比べ細胞内外の移動が大幅に制限されるためと考えられます。これまで、VD3をシクロデキストリンに包接させ、溶解度を向上させることで変換効率は著しく改善されましたが、細胞内酵素の蓄積量に依存した活性の向上は確認できていませんでした。この論文に示しましたように、抗菌物質ナイシンによってVD3の細胞膜透過に対する障壁を取り払い、変換活性を高めるという成果が得られましたが、このナイシン処理細胞を使用した場合には、細胞内酵素の蓄積量に依存して、VD3水酸化体の生産量が上昇するという結果を得ています。高活性型酵素を使用した場合にも同様の効果が得られると予想しています。近い将来、ナイシンを利用して膜透過効率を改善した系を実生産に利用することができれば、高活性型酵素はそのポテンシャルを充分に発揮することができるのではないかと考えています。
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