Vol.4 No.4 2011
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研究論文:微生物変換による活性型ビタミンD3の効率的生産(安武ほか)−227−Synthesiology Vol.4 No.4(2011)変換においては、CDを培地に添加し、CDの環状構造内にVD3を包接させて溶解度を向上させている。実際にin vivo、in vitro共に、溶液中へのCDの添加によってVdhのVD3水酸化活性は劇的に向上する。しかし、分子量の大きいCD-VD3複合体が細胞膜を透過することは難しいと考えられ、VD3はCDから解離した後に拡散的に細胞内へと入ると考えられるが、実際のVD3細胞内取り込み機構は全く不明である(図5)。そこでまず、何らかの膜タンパク質(トランスポーター)によってVD3が運搬されている可能性を考慮し、トランスポゾンを用いたランダム遺伝子破壊実験およびR. erythropolisゲノム情報を利用し、VD3の変換活性を向上させるようなトランスポーターホモログ遺伝子の同定を試みた。しかし、現在までにそのような遺伝子を見出すことはできていない。そこで着想を大きく転換し、細胞に物理的に穴を開けることでCD-VD3複合体を細胞内の酵素に直接的に送り届けることはできないか検討を行い、ナイシンという抗菌物質に着目した[11]。ナイシンはLactococcus lactis由来の34アミノ酸から成る抗菌ペプチドであり、食品添加物としても認可されている。ナイシンの作用機序はよく研究されており、主にグラム陽性菌の膜に直径2-2.5 nm程度の孔(pore)を生じさせ、細胞内低分子物質が細胞外に漏出することで抗菌活性を示す[12]。過剰のナイシン添加は溶菌作用を示すが、R. erythropolis細胞は他の細菌と比較して溶菌しにくい性質をもっている。そのため、ナイシンの添加量を調節することにより、孔は形成されながら一方で細胞構造は維持され溶菌しないというユニークな状態を作り出すことが可能となる。この状態の細胞は、理論上フェレドキシンやP450等のタンパク質は細胞外に出られず、酵素が高濃度にパックされた反応容器として利用できる。この孔を通ってCDやVD3が細胞内に自由に出入りすることができるかどうかを実験的に調べるために、ナイシン処理を施した細胞に対し、緑色化学発光γ-シクロデキストリン(Green Chemi-luminescence CD)を添加し、その細胞内取り込みを調べた。その結果、ナイシンの濃度、および処理時間に依存して細胞からの発光レベルが高くなり、孔がCDの通り道として利用可能であることを確認した。次に、実際にナイシン処理した細胞を用いVD3水酸化反応の実験をさまざまな条件下で行ったところ、ナイシン処理した細胞は未処理の生細胞とは異なり、細胞内に存在する酵素量に依存して水酸化能が上昇することを見出した。さらに、反応系にNADH再生系を要求すること、そして細胞内に安定なレドックスパートナーを発現させておくことが重要であるということが判明した[10]。NADH再生系にはグルコース脱水素酵素(GDH)を用い、また安定性の高いレドックスパートナーとしてAcinetobacter由来の+ + + 細胞膜 細胞内 細胞外 細胞膜 細胞内 細胞外 A シクロデキストリン VD3 VD3/シクロデキストリン(包接体) B 低分子細胞内成分は漏出するが、溶菌はせず、変換は継続される。シクロデキストリンナイシン処理により生まれた孔(Nisin-Lipid II pore)25(OH)VD3VD3Rhodococcus erythropolis電子 (e-)電子 (e-)グルコース脱水素酵素(GDH)グルコノラクトングルコースNAD+NADHNAD+NADHOHP450(Vdh)フェレドキシン(AciB)フェレドキシン還元酵素(AciC) +Nisin-Nisin変換された25(OH)VD3 の総量(µg)040080012001600 細胞図6 ナイシン処理を行ったR. erythropolis細胞による水酸化VD3生産の概念図図5 細胞膜の物質透過の概念図通常の状態の細胞膜(A)では、VD3のみが自然拡散的に膜を透過できると考えられる。ナイシン処理により孔が生じた細胞膜(B)では、シクロデキストリンを含め低分子量物質は自由に移動できるようになる。

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