Vol.4 No.4 2011
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研究論文:微生物変換による活性型ビタミンD3の効率的生産(安武ほか)−226−Synthesiology Vol.4 No.4(2011)対する最適化ではなく、分子構造全体がとりうる二つのコンフォメーション(open formとclosed form)の平衡を調節することで可能になった[8](図3)。P450は自然界において、二次代謝産物の生合成系あるいはさまざまな物質の解毒分解にかかわる酵素であり、広い基質特異性を示す分子種も多い。当該研究で観察された変異導入による構造変化の平衡移動は、自然界において新たな環境や物質に出会った時、これらP450がわずか数カ所の変異で迅速に適応するメカニズムなのかもしれない。この成果によって、VD3水酸化体生産効率を著しく向上させられる可能性が生まれた。しかしながら後述する基質の膜透過性の問題により、酵素の性能アップだけではVD3水酸化体生産効率の大幅な向上には至っていない。3.4.2 酵素副反応を完全に消去するP. autotrophicaによる活性型VD3生産においては、約10 %の割合で26位炭素が水酸化された副反応産物が生じる。これは明らかに酵素の基質認識に問題があり、より厳密にVD3を認識する酵素を作製するか、基質結合ポケット内での基質の結合方位を微調整する必要があると思われた。そこで、構造情報に基づいた基質結合ポケットへの変異導入を行うため、VdhとVD3の複合体結晶構造解析を試みた。Vdh-WTは基質結合親和性が低く、基質複合体結晶を得ることができなかったが、一方で高活性変異体Vdh-K1はVD3との複合体の状態で結晶化に成功し、酵素がどのようにVD3を認識するのかを明らかにすることができた[8](図4)。基質結合ポケットを形成するアミノ酸残基のうち、VD3の24位から27位炭素の近傍に位置するアミノ酸残基に着目し、それらに対してアミノ酸総置換を行うことで副反応比率が低下した変異体(I88V)を取得した[9]。Vdh-K1 + I88Vの5重変異体は、P. autotrophicaによる生体変換試験において、副反応比率が1 %程度にまで低下し、また単独I88V変異体の場合は、26位水酸化体は検出限界以下にまで低下した。この成果は、立体構造情報に基づいてはいるが、完全なrational designではない。どのアミノ酸残基のどのような変異が副反応を低減させられるのかを、論理的に推定することはとても難しい。したがって、変異を導入するべき場所(アミノ酸残基)のみを立体構造を基に選定し、選定したアミノ酸残基に対してはランダム総置換の戦略をとることで、副反応低減を実現する変異を選び出すことに成功した。この研究成果により、25(OH)VD3の生産効率を高めることに成功し、現在実用化に向けた開発が進められている。3.5 細胞を加工するVdhを組換え発現させたR. erythropolisにより活性型VD3を生産するにあたり、最後の大きな問題となる事象が物質の細胞膜透過効率である。これはR. erythropolisに特有の問題ではなく、P. autotrophicaにおいても同様の問題が観察されていた。R. erythropolisにおいては、細胞内Vdh発現量を変動させても、細胞内酵素量とVD3水酸化体の変換率に相関は認められず、ある一定の変換効率で固定される[10]。またP. autotrophicaでは、試験管内での再構成系を用いたアッセイ結果では飛躍的な高活性化が確認されたVdh-K1(3.4.1参照)であっても、P. autotrophica細胞内変換を行うと野生型と大きな差が生まれないのである。これは細胞内で酵素の性能が生かされていない状況を意味しており、基質であるVD3の細胞膜透過が律速になっていると推測された。VD3 は脂溶性のステロイドであり水への溶解度は極めて低い。そのため現在の微生物M216L156R384R70E216V156E384T70基質(VD3)進化工学(4アミノ酸残基の置換)ヘム高活性型Vdh変異体(Vdh-K1)野生型Vdh(Vdh-WT)Closed from(基質高親和型)Open form(基質低親和型)基質結合ポケットAsn181 Asn181 Lys180 Lys180 Leu171 Leu171 Met86 Met86 Leu89 Leu89 Ile88 Ile88 Pro287 Pro287 Thr240 Thr240 Leu387 Leu387 Ala236 Ala236 Ile235 Ile235 Leu232 Leu232 Asn181 Asn181 Lys180 Lys180 Leu171 Leu171 Met86 Met86 Leu89 Leu89 Ile88 Ile88 Pro287 Pro287 Thr240 Thr240 Leu387 Leu387 Ala236 Ala236 Ile235 Ile235 Leu232 Leu232 VD3VD3 25(OH)VD325(OH)VD3 図3 P450 Vdhの高活性化メカニズム一般にP450はオープン構造とクローズ構造の平衡にあり、基質はクローズ構造と結合しやすい。進化工学によって選ばれた変異によってこの構造間の平衡が大きく移動し、クローズ構造をとる分子の総数が増え、高活性化が達成された。図4 P450 Vdhによる上下反転した異なる基質認識メカニズムVD3(左)と25(OH)VD3(右)はそれぞれ互いに反転した方位で酵素に結合することができ、それによって活性型VD3への連続水酸化が可能となる。基質結合サイトの詳細情報から、副反応を除去するための変位候補のアミノ酸を選定した。
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