Vol.4 No.4 2011
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研究論文:微生物変換による活性型ビタミンD3の効率的生産(安武ほか)−225−Synthesiology Vol.4 No.4(2011)次に、大量発現により取得された酵素の試験管内における活性測定を行い、酵素の機能を詳細に解析した。P450は水酸化反応の1代謝回転を行うために2個の電子が必要であり、電子を供給するレドックスパートナータンパク質をアッセイ系に加える必要がある。ここでは、さまざまなP450のアッセイに対して汎用的に用いられている市販のホウレンソウ由来レドックスパートナータンパク質を利用した。その結果、この酵素がVD3から25(OH)VD3、および25(OH)VD3から1α,25(OH)2VD3への二段階の水酸化反応を連続的に触媒することが明らかになった。1α(OH)VD3が検出されないことから、この酵素は必ずVD3の25位炭素を最初に水酸化し、続いて25(OH)VD3に対して1位炭素の水酸化を行うことが分かった。また、少量の26位水酸化体も検出され、これらの結果はすべてP. autotrophica細胞によるVD3変換時に検出されるものと一致した。私達はこのP450酵素がこの微生物変換を実際に担っている酵素であると断定し、ビタミンD3水酸化酵素(vitamin D3 hydroxylase (Vdh))と名付けた。以下、このP450酵素をVdhと記すことにする。3.3 組換え発現を用いた細胞内変換次に、R. erythropolisの組換え細胞を用いてVD3の水酸化を行う微生物変換系の構築を行った。Vdhの単独発現ではVD3水酸化活性はとても低く、何らかのレドックスパートナータンパク質を共発現させる必要があった。そこで、抗生物質チオストレプトンによって発現が誘導される誘導型ベクターに、VdhおよびR. erythropolis由来のレドックスパートナータンパク質(フェレドキシンおよびフェレドキシン還元酵素)をコードする3種の遺伝子を挿入し、R. erythropolis細胞内でこれらを共発現させ、培地にVD3を添加してVD3の変換試験を行った。結果、R. erythropolis細胞を用いた場合にも、活性型VD3が生産されることを確認した。P450への電子供給を最も効率良く行うことができるパートナーは、必ずしもそのP450が本来の由来生物細胞内でカップルするタンパク質であるとは限らないことが報告されている[7]。これは遺伝子の細胞内発現レベルや細胞内環境のわずかな差異によって電子伝達効率が著しく左右されるためと考えられている。そこで私達は、上記の共発現ベクターにさまざまな電子伝達タンパク質遺伝子を挿入して変換テストを行い、それらの中から高いVD3水酸化活性を示すレドックスパートナーを探索した。その結果、Acinetobacter由来のAciB、AciCというタンパク質がVdhに対して最も相性のいいパートナーであった。3.4 酵素改良への異なる二つのアプローチ一般に生物が作り出す酵素というものは、ある基質を特異的に認識し、特異的な反応を行うことに特化した触媒体である。しかし、P. autotrophicaが生息する土壌中にVD3は見出されないため、VdhはVD3を水酸化し代謝するために進化した(特化した)酵素ではないと考えられる。事実、単離精製した酵素のVD3水酸化活性は、何らかの物質の生合成に関与するような特異的機能をもつP450の活性よりもかなり低い。したがって、VdhのVD3水酸化活性は酵素として全く最適化されておらず、まだまだ向上させることが可能だろうと考えられる。酵素を改良するための変異導入を行う場合、全く異なる二つのアプローチがある。一つは、タンパク質の立体構造を解析し、その構造情報に基づいて変異を導入する論理的戦略(rational design)である。構造機能相関が明確である場合には強力な手法である一方で、タンパク質の立体構造は無数のパラメータから成る複雑系であるため、時にアミノ酸残基と機能との間に単純な相関関係がないことも多い。もう一つのアプローチは、ランダム変異を導入した遺伝子変異ライブラリーを作製し、性能の向上した変異体をスクリーニングする進化工学的アプローチである。こちらはライブラリーの作製とそれらすべてをアッセイして検証する必要があるため大変な労力が必要となる一方で、活性部位近傍に限らず、配列上のいかなる場所からも酵素の機能向上に貢献する変異が抽出されてくる可能性がある。当該研究では、これら二つのアプローチをどちらかに限定することなく、両方の手法を用いて酵素の改良を行った(図2)。結果的に、進化工学および構造に基づいた変異導入の両方の戦略において、それぞれの手法の長所が引き出され、有用な変異体を生み出すことに成功した。3.4.1 酵素の高活性化VD3水酸化活性が著しく向上した変異体は、ランダム変異によるスクリーニングの後、活性が向上したクローンの変異か所を組み合わせることによって取得された。最も活性が向上した4重変異体(Vdh-K1)は、野生型Vdh(Vdh-WT)と比較して25位水酸化活性が約12倍、1位水酸化活性が約25倍、それぞれ向上していることが確認された[6][8]。興味深いことに、これら4カ所の変異はすべて活性部位から遠く離れた場所に位置しており、このような変異をrational designによって見出すことは困難である。Vdh-K1の取得は、構造情報にとらわれない進化工学の利点が最大に生かされた結果となった。一方、立体構造解析を行うことで、なぜこれらの変異が大きな活性向上を生み出したのかを推察することができた。Vdh-WTとVdh-K1の間には大きな構造変化が観察され、変異4カ所のうち3カ所はその構造変化を誘発させうるような変異であった。すなわちVdhの活性向上は、基質結合ポケットの基質の形状に

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