Vol.4 No.4 2011
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研究論文:微生物変換による活性型ビタミンD3の効率的生産(安武ほか)−224−Synthesiology Vol.4 No.4(2011)り、25位水酸化体収率を下げる要因となっている。これは酵素反応の部位選択性が低いことが原因であるため、部位選択性の向上した変異体酵素を作製し、26位水酸化反応を抑制することが求められる。④ 細胞膜透過の問題・・・VD3は脂溶性ビタミンであり、難水溶性の性質を示す。したがって、上述したように変換培地中にはVD3と共にシクロデキストリン(CD)を添加し、CDの環状構造中にVD3をトラップ(包接)させた状態で溶解させている。相対的に分子量の大きいCD-VD3複合体は細胞膜を透過できないため、CDから解離したVD3が単独で効率良く膜を透過するか、もしくはCDごと膜透過させるような工夫が必要である。細胞膜透過効率は、この微生物変換反応の律速になっており、膜透過の問題が改良されれば、反応効率(①)および見かけの反応速度(②)の向上も同時に期待される。解決されるべき上記問題点のうち、①から③に関しては、変換反応を実際に担っている酵素の性能が主な原因として挙げられる。そこで、まずは酵素の特徴付けと変異導入による改良、および酵素の細胞内での大量蓄積技術が必要となる。また後述するとおり、この酵素はシトクロムP450と呼ばれる酵素群の一員である。シトクロムP450とは、分子内にヘムをもち、外部から電子が供給されることでさまざまな物質の炭化水素鎖に水酸基を挿入する能力をもつ酵素群の名称であり、活性を発揮するために適切な電子供与タンパク質を必要とする。そこでこの酵素に効率良く電子を伝達できるようなレドックスパートナー遺伝子を探索し、この酵素と共に共発現させる必要がある。④に関しては細胞膜自体の構造、あるいは物質を膜透過させるトランスポータータンパク質の機能の問題に関係するため、そのような情報を取得できる細胞であることが望まれる。以上の問題を解決するためには、VD3水酸化能を有さず、組換え大量発現が可能で、培養が容易で増殖も速く、かつゲノム情報が利用できる微生物を変換ホストとして利用して情報収集を行い、P. autotrophicaの系へフィードバックすることが望ましいと考えた。これらの条件を満たす生物種として、P. autotrophicaと同じ放線菌に属するRhodococcus erythropolis宿主ベクター系[5]を利用して研究を進めることとした(図2)。3 成果への道筋3.1 酵素の単離と遺伝子の同定希少放線菌であるP. autotrophicaにVD3を活性型VD3に変換する能力があることが発見されたのは今から約20年前のことである。ステロイド骨格への水酸化反応を触媒するという特徴から、この反応を触媒する酵素はシトクロムP450の一種であると予想されたが、酵素の同定には長い間成功していなかった。そこで私達はまずこの酵素をコードする遺伝子の探索から着手した。P. autotrophicaのゲノム配列解読はなされていなかったため、VD3水酸化活性を指標にP. autotrophica細胞抽出液から直接酵素の精製を試みた。VD3水酸化活性は、一般にP450が活性を発揮するために必要とする電子伝達タンパク質を共存させることで検出されたため、目的酵素は予想どおりP450の一種であると確認されたが、精製途中でVD3水酸化活性が検出できなくなる現象が障壁となり精製は難航した。試行錯誤の結果、この酵素が活性を示すために反応溶液中に塩(NaCl等)が存在しなければならないことを見出し、精製の最終ステップまで活性を追跡することが可能となった[6]。得られた精製酵素より部分アミノ酸配列の決定を行った後、この酵素をコードする遺伝子のクローニングに成功した。3.2 試験管内でVD3水酸化反応を再現上述の方法により同定に成功したVD3水酸化活性を示す酵素は、大腸菌を用いた一般的な大量発現系を利用して生産することが可能であった。ただしP450酵素はヘムタンパク質であるため、ヘムを内包した活性型酵素を取得するためには、培地中にヘム前駆体である5−アミノレブリン酸を添加する必要があった。これは大腸菌を利用してP450酵素を大量生産する際に頻繁に用いられる手法である。一方、この酵素はR. erythropolisを利用した組換え大量発現も同様に可能であったが、その際培地に5−アミノレブリン酸を添加することなく酵素の取得が可能であった。これは、放線菌がそもそも多くのP450遺伝子をもつことから、ヘム生合成経路が安定に機能し、細胞内のヘムが枯渇することなく維持できているからだと考えている。5−アミノレブリン酸は高価な試薬であるため、組換え発現を行う場合、R. erythropolisを利用した微生物変換はこの点で有利である。酵素の単離同定・遺伝子のクローニング酵素の高活性化・26位水酸化副反応の除去進化工学 + 立体構造宿主ベクター系の開発各種遺伝子工学技術細胞膜改変による基質透過の円滑化最適なレドックスパートナー遺伝子の探索、改良P450 (Vdh)の高機能化微生物細胞による高効率なビタミンD3水酸化系の構築図2 研究開発のアウトライン

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