Vol.4 No.4 2011
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研究論文:微生物変換による活性型ビタミンD3の効率的生産(安武ほか)−223−Synthesiology Vol.4 No.4(2011)一方、この化学合成法に代わる手法として、微生物がもつ変換能力を利用した活性型VD3の製造が実用化されている[3][4]。この微生物変換反応を担うPseudonocardia autotrophicaという放線菌は、培地中に添加したVD3を活性型VD3へと変換する能力をもつ。さらには、この微生物変換の過程で生まれる反応中間体(25(OH)VD3)は、医薬中間体としての利用価値があると共に1α,25(OH)2VD3同様の薬理効果があり、この25(OH)VD3の取得も同一のプロセスにおいて可能である(一般試薬として販売されている25(OH)VD3の値段は1 mg当たり約4万円である(S社カタログ))(図1B)。生物が所持する酵素を利用した生体触媒変換は、一般に高い部位選択性・立体選択性を示すことから、化学物質合成において大きなインパクトをもつ。加えて、これまでの有機合成法に比べて安全であり、汚染物質の排出量が少なく、かつ穏やかな反応条件(常温・常圧)であることからエネルギー消費量も低い。このような特徴を併せもつ生体触媒変換技術に対しては「グリーンケミストリー」という言葉が使われるように、環境調和型の物質合成手法として広く知られている。P. autotrophicaによる活性型VD3の生産は、このような特徴をすべて兼ね備えた環境調和型の物質生産法である。しかし、後述するようなさまざまな問題点が存在しているため、その生産性は最大化されていない。この論文では、まず現在実用化されている微生物変換における問題点と開発目標を示し、その上でそれを解決するために適用した研究手法とその組み合わせ方、またどのような着眼点が有効であったかを示しながら、高効率・高性能な組換え微生物変換系の構築に至るまでを記述する。なおこの論文では、企業が事業実施しているVD3水酸化体生産に関する情報をオープンにできないため、記述した開発内容がどれだけ実生産の効率化に寄与できるか数値で示すことができない点を了承いただきたい。2 克服すべき問題点と開発目標微生物変換による活性型VD3の生産技術の利点は上述のとおりであり、現在、企業ではVD3水酸化能の高いP. autotrophica育種株を培養し、培養液にVD3とVD3の溶解度を高める目的でシクロデキストリン(CD)を添加し、微生物を増殖させながらVD3水酸化体を培地に蓄積させていく手法が採られている(図1B)。研究初期はP. autotrophica野生株を用いて検討が進められ、菌培養2日後にVD3を添加し(200 µg/ml)、翌培養3日目に45 µg/mlの25(OH)VD3の蓄積が確認されている[4]。現在は育種株を使用した生産が行われており、その生産効率はかなり高くなっていると考えられる。しかし、この手法には改良を施すべき問題点も存在しており、それらを解決することによって、飛躍的に性能が向上した微生物変換が可能になると考えられる。以下に、それら問題点、推定される原因を分析し、解決の指針をまとめる。① 変換効率・・・現在実施されている微生物変換では、培地中に添加したVD3がすべて変換されず、未反応基質が残留している。実験室レベルでの解析では30 %以上の未反応物が確認される。変換可能量は細胞内の酵素の絶対量に大きく依存すると考えられるため、大量の酵素を細胞内に安定に発現・蓄積させる技術が必要である。これにより、添加したVD3の大部分を活性型に変換する変換系の構築が期待される。② 変換速度・・・現在実施されている微生物変換では、1回あたりの変換反応には100時間以上を必要としている。これは、微生物の生育速度が遅いことと、酵素の天然基質(未特定)ではないVD3を基質として使用しているため酵素反応速度が遅いことが主な原因であると考えられる。反応速度を向上させた変異体酵素を創成し、増殖が速い微生物細胞中で反応を行うことにより、より短い期間で同一量の活性型VD3を得ることが可能になると考えられる。③ 副反応産物の存在・・・この微生物変換における最大の問題は、26位炭素が水酸化された副反応産物が生じることである。この26位水酸化体は、高速液体クロマトグラフィーにより25位水酸化体と近接あるいは重なったピークとして溶出される。このため、医薬品としての25位水酸化体生産には、26位水酸化体を完全に除去する必要があBA約20ステップ(薬剤)1α,25(OH)2VD31α,25(OH)2VD3コレステロールOHOH(医薬中間体)25(OH)VD3(薬剤)排出P450(Vdh)P450(Vdh)OH(Pseudonocardia autotrophica)シュードノカルディア属放線菌排出取り込みビタミンD3 (VD3)細胞内OHOH図1 活性型ビタミンD3の生産法有機合成法(A)およびP. autotrophicaによる微生物変換による方法(B)。

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