Vol.4 No.4 2011
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研究論文:圧力計測の信頼性向上と国際相互承認(小畠ほか)−210−Synthesiology Vol.4 No.4(2011)てきた、デジタル圧力計を活用した研究開発とその成果を、シナリオに基づく構成学的観点から述べる。2 圧力計測の信頼性への要請2.1 国内産業界からの要請産業現場において、圧力計を用いて信頼性の高い圧力測定を行うには、その圧力計の目盛りをあらかじめ、産総研が保有している圧力の国家標準にトレーサブルな形で正しく校正しておく必要がある。一方、これまで産業界が保有する圧力の標準器は重錘形圧力天びん(重錘形圧力計)注1)と呼ばれる最も精密なタイプの装置が主流であった。重錘形圧力天びんは長期安定性に優れるという特徴があるが、他方それ自体重く、またサイズもかなり大きいため、校正サービスを受ける側からすると、校正機関へ輸送するのが容易でないという問題があった。また校正機関での校正は、最長で2ヶ月程度かかる場合もあり、その間、標準器が手元で使えないことから、バックアップのために余分に標準器を用意する等、少なからぬ経費が発生するという問題もあった。このため産業界からは、重錘形圧力天びんを輸送することなく、これまでと同等の精度で効率的に校正が受けられる何らかの方法が要請されていた。最近、工業用デジタル圧力計の特性が著しく向上し、環境変化および輸送に対する安定性だけでなく、長期の安定性も一定程度確保できる見通しが出てきた。このような状況の中で、工業用デジタル圧力計を標準体系に組み込んで有効利用することを試みた。通常、工業用デジタル圧力計は、校正機関において標準器を用いて校正された後、産業現場に輸送されるが、輸送後のデジタル圧力計の目盛りが十分に安定であれば、産業界は自社の重くて大きい重錘形圧力天びんのような標準器を校正機関に輸送することなしに、これまでと同等の精度で国家標準にトレーサブルな校正値を産業現場で維持することができ、校正業務が著しく効率化される。標準体系においてデジタル圧力計の利用を促進するためには、工業用デジタル圧力計を日本国内のどこに輸送したとしても校正値の安定性が十分保たれること、そして、次の校正が行われるまでの一定期間内、十分な安定性が保たれることが必須の条件となる。産総研はこのような特性を工業用デジタル圧力計が有するかどうかを明らかにする研究に着手した。2.2 国際的要請経済、生産、通商等のグローバル化に伴い、種々の計測器による測定結果が各国間で整合しているかどうかに関心がもたれ始めた[1][2]。例えば、成田空港や羽田空港では日本の航空会社の整備工場が、外国籍の航空機の整備を請け負うといった国際ビジネスが増えてきている。一方、1990年代に米国で航空機事故が多発したことから、米国民の安全を確保することを目的として米国政府は連邦航空法を改正し、米国籍の航空機を整備する要件として、使用する圧力計等の計測器が米国の国家計量標準機関である国立標準技術研究所(NIST)の国家標準にトレーサブルであることを要求し、米国連邦航空局(FAA)の検査官が定期的に整備工場を現地検査することとなった。この米国政府の要求は米国の航空会社にとどまらず、米国籍の航空機を整備する外国の整備会社にも適用されたため、日本航空と全日空が自社の整備工場のほとんどすべての計測器をNISTトレーサブルにしなければならないという事態になった。もともと日本の航空会社の整備工場では、日本製の計測器が多く使われ、そのほとんどが産総研(当時は旧工業技術院の研究所)にトレーサブルになっていたため、国際問題となった。日本政府はこのとき米国連邦航空局に対して、日本の国家標準は米国のそれと同等であることが実証されているので、日本の国家標準にトレーサブルな計測器を使うことも許容されるべきであると主張し、個別事例として受け入れられた。この問題は日本だけでなく、世界各国の航空会社にも波及した。このような問題を背景として1999年に、各国の国家計量標準機関が所有する国家標準の同等性を相互に認め合うために、メートル条約のもと国際度量衡委員会の相互承認協定(CIPM-MRA)が発足した[3]。計量標準における国際相互承認の枠組みを図1に示す。この枠組みでは国家標準を各国間で実際に比較(国際比較)することを相互承認のための技術的な要件とした。国際比較の結果と参加機関ごとに承認された校正・測定能力は、それぞれ国際相互承認協定の附属書BとCに登録され、それらは国際度量衡局 (BIPM)の基幹比較データベース(http://kcdb.bipm.fr/)上で誰でも見られるようになっている。これらの技術情報から、各国が保有している国家標準の水準を知ることができる。 図1 計量標準における国際相互承認の枠組み グローバル化した世界外国の市民・企業障壁のない自由貿易国内の市民・企業国際試験所認定相互承認協定メートル条約相互承認協定社会・産業界のユーザー圧力計校正事業者国家計量機関社会・産業界のユーザー圧力計校正事業者産総研外国の計量トレーサビリティ日本の計量トレーサビリティ
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