Vol.4 No.4 2011
17/62
研究論文:地質学から見た高レベル放射性廃棄物処分の安全性評価(山元)−206−Synthesiology Vol.4 No.4(2011)時間的にも空間的にも偏在しており、決して一様には起きていない。活動のピークや分布状況を考慮に入れるなら、DOEの示す確率は明らかに過小評価であるとの強い指摘があったのも当然のことであろう[12]。すなわち、確率値の算定には時間尺度や空間尺度の取り方によって値が異なる任意性があり、活動頻度の偏在性を説明する科学的な根拠なしには、確率的な将来予測を行っても信頼性に乏しいと言わざるを得ない。安易に火山活動の確率評価を東北日本に当てはめた研究例も見受けられるが[13]、これらは第四紀の火山の分布をそのまま一定の確率関数として外挿したもので、この論文で示したような図4や図5の時空分布変化やマグマ噴出量変化を考慮したものではない。火山活動の評価では活動域の時空変化に合わせて、火山活動の源である地下深部におけるマグマの発生条件も理解しておく必要がある。この論文では詳しく触れないが、前述の東北日本背弧域に新規出現した沼沢火山では噴出物の化学組成変化に部分溶融度の上昇が認められ、地殻の再加熱でマグマが生じたと考えられている[8]。また、東北日本南部の会津地域の巨大カルデラ噴火では、下部地殻の大規模な溶融と地殻の上下方向の再配列が大量のマグマ形成時に起きたことが同じく噴出物の地球化学的特性から示され、地震学的に示される地下の温度構造との対応が良い[9]。火山活動の将来予測では、地質学的・地球物理学的・地球化学的根拠からマグマ成因論にまで踏み込んだ評価が求められるのは当然であり、理論的裏付けのない数あわせだけの確率評価はその意味付けが問われるだけでなく、ユッカマウンテン計画のような無用の混乱をもたらしかねないことに留意すべきである。5 まとめ原子力発電の結果として放射性廃棄物がすでに多量に国内に存在し、今も発生し続けている以上、これを早急かつ効果的に処分せざるを得ない状況下に私達はある。特に地層処分では、埋設する地質環境の長期安定性評価という課題以外にも、事業そのものの社会的な合意形成が不可欠である。安全性の説明責任が事業者にあるのは当然のこととして、規制当局にも事業者の事業許可申請が妥当なものであるのか否かの判断能力を有し、かつそのことを社会に公にしておくことが合意形成のために求められよう。産総研深部地質環境研究コアは国の規制支援研究を担っており、研究成果を技術支援として安全規制へと反映させることを目的としている。特に、数十万年先の将来予測という一般国民の日常感覚を超えた時間尺度での安全性の考え方の提示は、地質学に基礎を置く深部地質環境研究コアが責任をもって解決すべき課題であると自認している。地質事象は、稀頻度事象(起こる頻度の低い事象)であっても、その事象が起きた場合の社会への影響が極めて大きくなり得ることは、今回の東北地方太平洋沖地震の教訓も踏まえなければならない。この論文はこのような背景から、地層処分における地質学的課題と将来予測の方法論について述べた。特に処分システムに影響を与える天然事象の評価では、候補地におけるジャスト・ヒストリーとしての地質構造発達史の復元が重要で、十分な尤度を持つ時間尺度で評価することが、“想定外の事象”を排除す那須火山群塔のへつり成岡桧和田高川入山沢砂子原上井草沼沢火山フロント会津盆地01.02.03.04.00100200300400500600700年代(百万年前)積算マグマ噴出量(km3 DRE)37°40’N37°30’N37°20’N37°10’N10 km0139°45’E140°0’E那須火山群塔のへつり成岡桧和田高川入山沢砂子原上井草沼沢火山フロント会津盆地01.02.03.04.00100200300400500600700年代(百万年前)積算マグマ噴出量(km3 DRE)37°40’N37°30’N37°20’N37°10’N10 km0139°45’E140°0’E図6 東北日本南部の会津地域全体を対象にした噴出物階段図長期的なマグマ噴出率は、100〜200万年間隔で起こる右のカルデラ(赤線部)を形成するような巨大噴火が支配している。Yamamoto[9][10]を一部改変。
元のページ