Vol.4 No.3 2011
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研究論文:札幌市庁舎ビルの空調システムの省エネルギー化実証実験(武内)−136−Synthesiology Vol.4 No.3(2011)剤を所定量注入した。このように調整し直した循環水と薬剤を混ぜても水和物は生成しなかった。薬剤の注入は地下2階循環ポンプ吐出部付近とした。注入には薬剤タンク内に投入された一定量の薬剤を併設したプランジャーポンプを用いて循環水に圧入する方式をとった。採取した循環水に対して、予め薬剤濃度と導電率の検量線を作成し、注入後循環水の薬剤濃度を求めた。また、実証実験中は地下2階、8階空調機室および19階膨張タンクで循環水のサンプリングを行い、薬剤濃度からビル全体での薬剤の混合状態を推測した。 6 実証実験6.1 流動性能の発現冬期の注入実証実験は、2006年11月に実施した。詳細は文献[8]にもある。本庁舎暖房システムは早朝に稼動し始め、夕方17時30分に停止される。したがって、循環水路全体が熱的に定常になったと考えられる9時に実際の循環水をサンプルし、それを用いて導電率と薬剤濃度の検量線を作成した。薬剤は粘度が高いため、一度に注入するとシステム内で濃度むらが発生し、極端な場合は高濃度の薬剤で細い流路に閉塞が生じてしまう可能性も考えられる。このため、はじめは10 kg/hの低速で薬剤を注入し、8階および19階での温水サンプリング、濃度測定および異常検出等に当たった。19階の膨張タンク内で少量の発泡を観察したが、問題にするほどの量でもなく、また増加傾向も認められなかった。3日間かけて合計100 kgの薬剤を注入した。この時点での推計薬剤濃度は3000 ppmである。システム全体での薬剤濃度をより均一にするため、第2回の注入作業は1週間あけてから行った。2日間で80 kgの薬剤を注入し、推定薬剤濃度が流動抵抗低減効果の発現に十分な5400 ppmとなったため、注入作業を終了させた。上記一連の作業中、薬剤濃度が0 ppm、3000 ppmおよび5000 ppmで、インバータ周波数を変化させて、流量およびポンプ消費電力量の値を測定した。この結果から、冬期間は薬剤濃度5000 ppm、インバータを35 Hzに設定し、定格流量に合わせると、65 %の省エネルギーが達成できることが明らかとなった。冷房期についても同様に流動抵抗低減効果を調べたところ、薬剤濃度3500 ppm、インバータ周波数40 Hzで47 %の省エネルギーとなることが分った。冷暖房期の実証実験結果をまとめて表2に示す。冷暖房期を合わせた通年での省エネルギー量を試算すると52,000 kWhとなり、本庁舎全体の電力使用量の1 %強の節約に相当する。6.2 伝熱特性の維持図5にある、冬期に使用する熱交換器内での伝熱性能の低下については、地域熱供給からの高温水蒸気が熱交換器チューブ内を、循環水が欠円型の邪魔板で仕切られている胴側を流れるため、循環水の流路は複雑で流れが大きく乱れており、流動抵抗低減も伝熱性能の低下も起こりえないと考えてよい。夏期に使用する吸収式冷凍機蒸発部の熱交換器は、長さ6 m、内径16 mmのUチューブ型の銅管414本で構成されている。このヘアピン状の管内を循環水が流れており、直管部では流動抵抗低減が起きていると予想される。また、ここで伝熱性能の低下も起きていれば、循環水が十分に冷却されずにビル内を循環することになり、ビル全体の冷房能力低下をもたらす。この熱交換器管内の伝熱係数について、経験式[9]から求めた値と熱交換器入口と出口の実測の温度差から求めた値を比較すると、実測値は13 %程低い値を示す。一般に伝熱性能の低下は流動抵抗低減より大きいとされている。建物全体での流動抵抗低減が47 %であった今回、約13 %の伝熱係数の減少は熱交換器管内の伝熱性能の低下がそこまでは大きくないことを示している。また、冷凍機出口温度は夏期稼働中設定値の11℃を維持し続けており、流動抵抗低減による省エネルギー化が空調機の運用上問題ないことが明らかとなった。6.3 長期安定性の確保薬剤の注入後、薬剤濃度を適正に保つことが重要である。濃度が低下する一番の理由は、薬剤を含んだ循環水の系外への漏れである。パッキン等のつなぎから少量ではあるが定常的に漏出することもあれば、夏と冬の流路切り替えで比較的大量に一時的に流出してしまうこともある。いずれも真水を追加して流路内に空気が溜まらないようにするが、この作業により薬剤濃度が低下し流動抵抗低減効果も小さくなってしまう。いずれの場合も追加した真水の積算量を測定し、極端に薬剤濃度低下が起きているようであれば不足分の薬剤追加注入を行わなければならない。札幌市役所の場合、前者、すなわちつなぎ目からの漏れは皆無であったが、夏の吸収式冷凍機から冬の熱交換器に流路を切り替える際には数トンの流出があったため、切り替え後、界面活性剤の濃度測定を実施し、その結果を基に追加注入を行っていた。さらに、何度か経験を積むうちに、切り替え作業に工夫を施し流出がほとんど無いように65660035約5000暖房47660040約3500冷房省エネ率(%)定格流量(L/min)設定周波数(Hz)薬剤濃度(ppm)空調モード表2 実証した夏期および冬期の運転条件と省エネ率
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