Vol.4 No.3 2011
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−192−Synthesiology Vol.4 No.3(2011)編集後記既存対象の全体から部分知を抽出するAnalysisと、部分知から新奇対象の全体を構成するSynthesisには本質的差異があります。この号の各論文はいずれも興味深いものです。対象とされたのは、空調システム、浄水システム、自動車用ナビゲーション、電子顕微鏡、サービスであり、すべて新たな人工物の創出を扱っています。既知の構成要素の統合を実践するコンソーシアムや共同研究について、あるいは、必要な構成要素の新規開発について述べたものです。ところで、何故人工物を創出するかと言えば、それがなんらかの価値を生み出すと期待されるからです。構成された人工物は、環境との相互作用で機能を発現します。しかし、優れた機能性が、自明的に価値の増大をもたらすわけではありません。環境で作動し機能を発現し、市場で取引され、人の主観的効用を満たし、社会的価値を増大しなければ、単に人工的なモノでしかなく、価値を生み出すことにはなりません。そして価値には、市場普及だけでなく、社会受容、文化波及という内容があります。いずれも、価値は“広がり”の本質をもつという意味で社会的です。そっと秘匿されるのは宝物であっても、価値ではないからです。それ故、社会的価値は、機能最大化とコスト最小化だけで論じることはできません。この点から、論文「自動車用ナビゲーションの総合的開発」では、社会受容のための国際標準化に向けた筆者らの体験が詳細に述べられ、得られる知見の多い貴重な論文です。また、論文「人の認知行動を知って製品やサービスを設計する」における、複雑な開放系である実世界における価値創成には人工物と人の相互作用が不可欠であり、その認識を通じて社会に受容されるという主張は、重要です。木村英紀教授を交えた座談会「システム科学技術の研究開発」ではいくつかの重要な論点が示されていますが、その中で吉川弘之産総研最高顧問の「社会的期待」にも言及があります。「社会的期待の発見」は、観察者によるアナリシスなのか、あるいは行動主体の参入によるシンセシスなのか、シンセオロジーの今後のテーマでもあると思います。最後に、シンセオロジーで扱われる論文のポジショニングに触れたいと思います。Analysis(解析)には、方法としての分析と目的としての解明の意味があり、Synthesis(構成)には、方法としての統合と目的としての創成の意味があります。したがって、Analysis by Analysis、Analysis by Synthesis、Synthesis by Analysis、Synthesis by Synthesisの四つのカテゴリーができます。本誌に投稿される各論文が、いずれのカテゴリーにポジショニングされるかを明示した上で論理展開すれば、論文の主張がより明確となると思われます。(編集委員 上田 完次)

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