Vol.4 No.3 2011
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研究論文:札幌市庁舎ビルの空調システムの省エネルギー化実証実験(武内)−134−Synthesiology Vol.4 No.3(2011)学的特性が調べられてきた。実際のビルの循環水に注入された120件余りの実績もある。しかし、民間企業で実施されたために技術的情報が公表されず、省エネ効果のみならず流動、伝熱および長期安定性に関する技術の蓄積が欠落し、技術の普及につながっていない。この研究では、これら要素技術の統合化を図るため、薬剤添加による流動性能の発現、省エネルギー効果の評価、伝熱性能の維持および薬剤の長期安定性確保について、それぞれの専門家が役割を担い、公共施設で実証実験を行ってその成果の一般化を図り、ビル空調の省エネルギー化に貢献することを目標とした。3 要素技術の開発流動抵抗低減剤の開発は1992年、山口大学、(財)周南地域地場産業振興センター、企業4社が産学官共同研究の一環として着手し、1995年商品化に成功した。界面活性剤である塩化オレイルビスヒドロキシエチルメチルアンモニウムと3次元ミセルネットワーク構造形成を促進する対イオン剤であるサリチル酸ナトリウムを主成分とし、さらに防錆剤等が含まれている[4](以後これを薬剤と表す)。また、通産省のエコエネルギー都市プロジェクトにおいても1997年から3年間、界面活性剤の開発を中心とする研究が産学官共同研究として進められ、工業技術院傘下の二つの研究所がメンバーとして参画している。また、1998年からはNEDOプロジェクトとして地域冷暖房システムに適用することを前提としたプロジェクトが1年半の間行われた。これらの動きの中で、研究機関での詳細な実験や企業を中心とした実際の建物への導入が行われるようになってきた。商品化された山口県発の薬剤を用いたビル空調への導入もある程度行われているが、普及には程遠い状況である。2002年には「スムースウォータ」実用化研究会が発足し、この技術に関連する産学官の専門家が集まり、技術シーズをいかに実用化につなげていくかが検討され、その中で実証実験の必要性も指摘された[5]。流動性能の発現に及ぼす因子としては、配管径、配管直管部分の長さ、流速、水温、薬剤濃度、水質等が挙げられる。一般に現場の配管はとても複雑で、幾度か行われている修理・改修等により竣工当時の配管図面と異なることが稀ではない。また、古い現場ほど流量計や温度計等の計測器が設置されておらず、実験実施はおろか省エネ運転等の大きな阻害要因となっている。手元に研究機関で得られた流動性能データがあっても現場では活用し難い場合が多い。伝熱性能の維持については、実験室規模の研究結果として、薬剤が流動抵抗低減のみならず伝熱性能も低下させるという報告があるが[6]、規模の大きい実機ではそのような報告は無く、その相違は解決しなければならない問題である。加えて、薬剤の長期安定性、すなわち寿命については公表されたデータは無く、現場での濃度管理の問題の上位にある課題として位置づけられる。4 札幌市庁舎の空調システムこのシナリオに基づき、実際の水循環システムに薬剤を注入し、流動抵抗低減がどれ程発現するか、また、その際に伝熱性能の低下は見られないか、さらに長期間安定して効果が維持されるか等について要素技術を統合した検証が必要である。実施対象としては、検証後のデータ公表が必須となることから、民間の施設ではなく公的な施設として札幌市役所本庁舎の冷暖房水循環システムを用いて実証実験を行うこととした。背景には、産業技術総合研究所(以下、産総研)と札幌市がエネルギーの有効利用を目的として締結した基本協定と覚書があり、札幌市は無償で実験サイトを産総研に提供し、産総研はそこに実験装置類を持ち込んで実験を実施し、得られた成果を共有することが謳われている。図4に本庁舎の外観写真を示す。建物は庁舎・1971年建設・地下2階、地上19階・2001年ステンレス配管・循環水量約32トンToms効果 界面活性剤の創製 管内熱・流体現象の解明 流動性能の発現 伝熱性能の維持 長期安定性の確保 札幌市庁舎での 実証 観察・解明 構成・統合 産総研 理科大 センター 産総研 企業理科大 共同研究役割分担 札幌市 センター ビル空調の飛躍的省エネルギー化方法の体系知識の体系先行研究 構成要素総合シナリオ研究目標図3 界面活性剤を用いたビル空調の省エネシナリオ図4 札幌市役所本庁舎外観
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