Vol.4 No.3 2011
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研究論文:軽元素原子を可視化する新型低加速電子顕微鏡の開発(佐藤ほか)−175−Synthesiology Vol.4 No.3(2011)近藤 行人(こんどう ゆきひと)1978年東京工業大学大学院・総合理工学研究科・電子化学専攻修了。工学修士。1979年日本電子株式会社入社。現在、同社EM事業ユニット技師長。装置開発の統括を担当。末永 和知(すえなが かずとも)1994年東京大学大学院工学系研究科博士課程材料学専攻修了。博士(工学)。同年エコールデミンパリ材料研究所博士研究員。1997年パリ南大学固体物理研究所博士研究員。1998年科学技術振興事業団国際共同研究事業研究員。2001年産業技術総合研究所新炭素系材料開発研究センター(現ナノチューブ応用研究センター)研究チーム長。2010年同センター上席研究員。JST-CREST研究代表者として本プロジェクトの全般にわたる立案・計画と運営を行うほか、低加速電子顕微鏡試作機による応用実験と、この論文の基本構想を担当。査読者との議論議論1 筆者の役割分担質問(阿部 修治:産業技術総合研究所評価部、清水 敏美:産業技術総合研究所ナノテクノロジー・材料・製造分野)この論文の筆者は8名の連名で構成されていて、主たる研究成果は産総研と日本電子の共同研究による成果と思いますが、関連する研究としてJST−CRESTプロジェクト(産総研と日本電子、物質・材料研究機構との共同研究)があります。論文最後に筆者略歴が記述されるとは思いますが、各機関および構成メンバーのこの論文における役割分担についてお聞かせください。回答(佐藤 雄太)この研究は、筆者を含めて産総研と日本電子から各8名、NIMSから2名の研究者(いずれも技術員を除く延べ人数)による共同プロジェクトとして推進されています。これは、着想当時まったく前例のなかった低加速専用電子顕微鏡を限られた期間で実現するために、観察・分析法の理論や電子顕微鏡装置、観察対象の物質・現象(固体物理学、材料科学、ナノ・バイオ)に関して、専門知識と経験を結集する必要があるためです。日本電子チームは電子顕微鏡メーカーの立場から、個々の要素技術の開発と低加速電子顕微鏡の設計、試作を担当しています。産総研とNIMSの両チームは、低加速化の着想に基づく予備検討、これまでの装置による参照実験、低加速試作機による応用実験を担当しています。以上の役割分担に関して、2章に追記しました。議論2 開発競争質問(清水 敏美)球面収差補正や色収差補正機能をもった低加速電圧専用の電子顕微鏡を独創的に世界に先駆けて開発したことがこの論文から伝わってきます。一方、6章には最近では当該研究が電子顕微鏡装置開発のメインストリームであり大規模プロジェクトが進んでいるとあります。この世界動向はこの研究成果を受けての動きなのか、それとも新たな独自の要素技術の統合による動きなのか不明です。世界的な動向とこの研究のベンチマークに関する記述を追加していただければ、より研究の特徴が出るものと思います。回答(末永 和知)この研究は、低加速に特化した電子顕微鏡の独自開発プロジェクトとして世界初のものですので、修正稿においてこの点を明記しました。ただしその開始直後から、海外のいくつかの開発グループも、同様の着想のもとで新たなプロジェクトに着手し、あるいは既存プロジェクトの低加速への拡張を行っています。このプロジェクトの1号機は、低加速専用として新たにつくられた世界初の装置で、その成果は他の競合プロジェクトにも、直接的・間接的に影響を与えていることは間違いありませんが、影響の範囲を明確に線引きすることは難しいのが実情です。しかし、ご指摘のとおり初稿では、世界動向に関する説明が不十分でしたので、6章に加筆しました。議論3 「ソフトマター」質問(阿部 修治) 「ソフトマター」というキーワードが頻繁に出てきますが、この論文で対象としているカーボンナノ材料は高強度材料としても期待されているもので、必ずしもソフトマターとは言えないと思います。今後は生体材料等のソフトマターにも対象を広げる計画なのでしょうが、それは現在の性能でも十分に可能なのか、それともさらに一段の技術開発が必要なのか、見通しをお聞かせください。回答(佐藤 雄太)ソフトマターの低加速観察はこの研究の最終到達目標ですが、現在までの観察実験では、その準備段階として既知の物質であるカーボンナノ材料を使用し、低加速化の効果の検証を主な目的としてきました。ここで使用したCNTやグラフェンは、優れた機械的強度でも知られており、また電子線照射に対しても、ソフトマターに比べると安定であると思われます。しかし、これまでの電子顕微鏡装置を使用した研究では、120 kVや80 kV等の低加速設定を行ってもなお、深刻な照射ダメージのため、学術的に重要な多くの観察・分析テーマを未解決のまま断念せざるを得ない状況でした。今回、新開発の低加速専用装置により、例えば炭素単原子に対するEELS測定の実現をはじめ、低加速化による照射ダメージの大幅な低減と高感度化を達成することができました。低加速顕微鏡試作機の性能は、特に空間分解能の点では当初の目標にすでに到達しており、今後は照射ダメージの低減効果をさらに検討するため、装置を実際にソフトマターの観察に応用する段階へと移行します。この過程では、低加速顕微鏡の装置本体の完成度をさらに高めることも当然必要ですが、実際の試料観察を通じて、ソフトマターにおける照射ダメージの有無やその未解明のメカニズムを検証し、加速電圧や電子線照射量等、観察条件の最適化を図ることが最大の課題となります。これは、低加速装置の応用と普及を促進するための重要なステップであり、特に産総研チームが中心となって、開発者とユーザーの双方の視点に立ちながら取り組むべき課題であると認識しています。議論4 実用化と普及質問(清水 敏美)種々のソフトマターが低加速電圧でしかも高感度に電子顕微鏡観察できることは関連する研究者にとっても、さらには学術的分野を問わず、材料、ライフサイエンス、他の分野への波及効果は計り知れないものがあります。1号機の成果事例をみると、すぐにでも実用化が可能なようにみえます。実用化への工程、問題点、解決すべき課題は何かをもう少し言及すれば、本格研究としての位置付けもさらに明確になると考えます。回答(佐藤 雄太)1号機による応用実験は現在も進行中ですが、同機が安定して高性能を発揮している実績からも、決して遠くない将来にその実用化が達成されるという見通しを持っています。その一方で応用実験では、装置内のいくつかのファクターが当初の想定以上に大きな影響を及ぼし、場合によっては観察を妨げたり、性能の頭打ちの主要因となることが明らかになっています。実用化に向けては、これらの問題の解決も重要と考えられますので、5.3節を新たに設け、課題と対策に関して記述しました。

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