Vol.4 No.3 2011
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研究論文:軽元素原子を可視化する新型低加速電子顕微鏡の開発(佐藤ほか)−170−Synthesiology Vol.4 No.3(2011)で相殺し、装置全体を負の色収差を持つ凹レンズとして作動させることにより、色収差の補正を行う。性能試験において、加速電圧を30 kVを中心に±25 Vだけ変化させても像の焦点外れ量(デフォーカス)がおよそ一定に保たれることから、所定の色収差補正機能が発揮されていることを確認している。4 要素技術の統合による目標の実現4.1 低加速電子顕微鏡の試作このプロジェクトでは、上記の電子銃や収差補正装置をはじめとする新開発の要素技術の統合により低加速電圧専用の電子顕微鏡を試作し、その性能評価を進めている。個々の新機構の動作確認や問題点の検証を効率的に行い、できるだけ速やかに実用的な低加速顕微鏡装置としての完成を目指すため、用途に応じて装置構成の異なる2台の試作機を整備した。表1に装置構成を示すように、一方の試作機(1号機)は加速電圧60/30 kVに対応する球面収差補正TEM/STEM両用機であり、他方(2号機)は加速電圧30 kVに特化した色収差・球面収差補正TEM専用機である。いずれの試作機も低加速電圧専用として世界に先駆けて開発された電子顕微鏡装置であり、以下に記すように性能評価試験において良好なデータが得られつつある。 4.2 低加速球面収差補正TEM/STEMの性能評価試作電子顕微鏡の1号機(図6)は、新開発のDelta型球面収差補正装置をSTEM用とTEM用に各1基搭載しており、2008年に稼働を開始した。暫定的に200 kV級の汎用電子銃を使用して実施した予備実験において、STEMとTEMの両モードで、球面収差および6回対称非点収差までの幾何収差が実際に補正可能であることを確認した後、低加速電子銃への換装とEELS分光器の搭載を行った。1号機のSTEMモードでの空間分解能の評価は、通常の高分解能STEM装置の場合と同様に、シリコン(Si)単結晶の<110>面の原子配置の観察によって行った[11]。60/30 kVのいずれの加速電圧においても、シリコンの原子位置(2次元の投影位置)が間隔0.136 nmの対を成す、いわゆるダンベル構造が環状暗視野(ADF)像に明瞭に捉えられた(図7)。さらにこれらのADF-STEM像に高速フーリエ変換(FFT)を施すと、加速電圧60 kVでは0.096 nm、30 kVでは0.111 nmの構造周期に対応するスポットを確認した。これらの値を各加速電圧における空間分解能dと見なし、電子線波長λとの比によって評価すると、d/λはそれぞれ20(60 kV)、17(30 kV)となり、既存のSTEM装置により加速電圧300 kVで達成された最高分解能d = 0.05 nm[10]に対応する値(d/λ = 25)を凌駕している。すなわち、波長比としては世界最高の分解能を達成したことになる。一方、TEMモードでの空間分解能の評価は、金(Au)のナノ粒子の観察によって行った[11]。加速電圧60/30 kVのいずれにおいても、<200>面の格子縞(面間距離0.204 nm)を明瞭に捉えることが可能である(図8)。これらのTEM像のFFT図には加速電圧60 kVでは79 pm、30 (b)136 pm136 pm004, 136 pm004, 136 pm224, 111 pm115, 105 pm440, 96 pm(a)60 kV30 kV1 nm1 nm○ : 搭載、- : 非搭載-○EELS用分光器○-色収差補正装置(TEM用)○○球面収差補正装置(TEM用)-○球面収差補正装置(STEM用)○(換装中)○低加速専用電子銃3060、30加速電圧(kV)TEMTEM、STEM、EELS機能2号機1号機表1 低加速電子顕微鏡試作機の機能と構成図6 試作1号機(球面収差補正低加速TEM/STEM)の外観図7 試作1号機STEMモードの性能評価(a)加速電圧60 kV、(b)30 kV。試料はSi<110>。

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