Vol.4 No.3 2011
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研究論文:軽元素原子を可視化する新型低加速電子顕微鏡の開発(佐藤ほか)−169−Synthesiology Vol.4 No.3(2011)収差を発生させ、対物レンズが持つ正の球面収差を相殺して補正する方法が開発された[12]-[14]。現在、TEM用およびSTEM用としてもっとも普及しているCEOS社製の球面収差補正装置は、2段の磁場6極子と転送レンズで構成されており、互いに向きの異なる3回対称磁場を順に印加することにより、球面収差や3回対称非点収差等の幾何収差を同時に補正する[13]。この既存の球面収差補正装置は、これまでの一般的なTEM、STEMにおける加速電圧すなわち100 kV以上においては有効に機能し、空間分解能の向上に大きく貢献してきた。一方、このプロジェクトにおいて加速電圧30-60 kVでの使用を想定した場合には、上記の2段6極子による補正の過程で不可避的に発生する6回対称非点収差が空間分解能を制限する主要因となることがシミュレーションによって予測されていた。そこでこのプロジェクトでは、球面収差の補正に加えて、これまで実現していない6回対称非点収差までの高次幾何収差の補正も可能な方法を模索し、3段の磁場12極子と転送レンズで構成されたまったく新しい球面収差補正装置を開発した[15]-[17]。これまでの2段6極子型、このプロジェクトの3段12極子型(Delta型)の各球面収差補正装置について、構成の概略と電子線軌道の解析結果[17]を図4に示す。上述のとおり、従来型(a)では2段の3回対称磁場の組み合わせによって6回対称非点収差が必ず発生するため、球面収差補正後の電子線において位相の揃った領域の大きさは、主にこの非点収差によって制限されることになる。この図においても、第2段の6極子を通過した高角度領域の電子線軌道が6回対称であることが示されている。一方、Delta型(b)でも同様に、第1段と第2段、第2段と第3段の3回対称磁場の組み合わせにおいて、それぞれ6回非点収差が発生するが、これら二つの6回非点収差が相殺されるように各段の磁場の方向を制御することで、最終的にはより広範囲の領域で位相変化を抑えることができる。第3段の12極子を通過した高角度領域の電子線軌道において、6回対称の形状が弱まっていることが示されている。 3.3 色収差補正装置このプロジェクトでは、前項のDelta型球面収差補正装置の開発と並行し、より挑戦的なテーマとしてTEM用の新型色収差補正装置の開発にも取り組んでいる。3.1項に記したように、電子線のエネルギー幅ΔEに起因する色収差はΔE/Eに比例するため、加速電圧Eが低いほどその影響が大きくなる。特に、このプロジェクトの目標とする加速電圧30 kVでのTEM観察においては、上述の高性能電子銃を使用してもなお対物レンズの色収差補正による空間分解能向上と像質改善の余地は十分にあると見込まれる。このプロジェクトでは、厚みを持った2段の4極子場によって生じる凹レンズ効果(コンビネーション凹レンズ効果)を利用して、TEMの色収差補正を実現した[17]-[19]。この方式による色収差補正は他に例がない。この色収差補正装置の構成の概略と電子線軌道の解析結果を図5に示す。装置は2段の厚い12極子と転送レンズにより構成されており、各段の12極子で電場4極子場と磁場4極子場を重畳させる。加速電圧の違いによる電子線の偏向感度が磁場(対物レンズ)と異なる電場を利用している。加えて、第1段で生じる2回対称非点収差を第2段(a)2段6極子型電子線6極子転送レンズ電子線12極子転送レンズ(b)3段12極子“Delta”型第2段6極子第1段6極子第2段12極子第1段12極子第3段12極子50100(mrad)50100(mrad)第1段12極子第2段12極子試料対物レンズ対物ミニレンズ12極子転送レンズ100 mrad50 mrad図4 球面収差補正装置の構成と電子線軌道のシミュレーション(a)2段6極子型、(b)Delta型(3段12極子型)。図5 新型色収差補正装置の構成と電子線軌道のシミュレーション

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