Vol.4 No.3 2011
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研究論文:緊急時に飲料水を確保するための技術(苑田)−155−Synthesiology Vol.4 No.3(2011)動かしてノウ・ハウを蓄積した契約職員がプロジェクトの終了とともにその仕事から離れてしまう。端的な例では、留学生が技術を学び本国に帰った後、その研究のエキスパートとして活躍するのに対し、組織改変等で技術を次の世代に継承できなかった組織は技術を持った人が居なくなるとともに消えてしまう。今後の展開として、リアルタイムで硝酸イオン等を検知できるセンサーの開発に注力する。また、これまで蓄積されたイオン選択吸着剤の技術を資源・エネルギー・環境・健康分野に適用し、イオン選択吸着剤の実用化研究を行い、一つでも商品となるものを生み出したい。謝辞この技術開発は、地域新生コンソーシアム研究開発事業「分離機能性ナノ粒子の非接触複合化による機動的浄水システムの開発」(2006~2007年度)の代表者であった健康工学研究部門廣津孝弘副部門長のリーダーシップにより得られた成果で、深く感謝致します。また、研究協力いただいた産総研四国センター、帝人エンジニアリング(株)、協和化学工業(株)の技術者・研究者の方々、プロジェクトに参画いただいた阿波製紙(株)、香川県産業技術センター、徳島県立工業技術センター、香川大学工学部、鳴戸教育大学の方々、管理法人としてサポートいただいた(財)四国産業・技術振興センター(STEP)の故田村恭弥氏、西山良一氏に謝意を表します。注1)地域の全体的な地下水質の状況を把握するために実施する調査注2)汚染が確認された地域について、継続的に監視を行うための調査注3)ここで、吸着「剤」(図3)と吸着「材」(図4、図5)は、次の様に区別して、用いている。吸着剤:化合物として、一つの一般式で表すことが出来るような物質。無機イオン交換体の場合に粉末状となる場合が多く、そのまま水処理に用いると相分離が容易でないことが多い。吸着材:水処理に用いる際に相分離が容易となる様に粉末吸着剤をバインダー等で成形した材料。有効成分以外を含んでいるため、体積あたりの性能は粉末吸着剤に比べ低下する。「平成21年度地下水質測定結果」, 環境省 水・大気環境局 (2011.3)http://www.env.go.jp/water/report/h22-01/full.pdf苑田晃成: 機動的浄水システムの開発, 産総研TODAY, 10 (3), 4-5 (2010).大井健太: 無機イオン交換体-選択的分離機能の発現と応用-, (株)エヌ・ティ・エス, 東京 (2010).特許第4339674号, 機能性粒子担持繊維とその製造方法, (2009. 7. 10)[1][2][3][4]参考文献執筆者略歴苑田 晃成(そのだ あきなり)1993年九州大学大学院総合理工学研究科分子工学専攻博士課程修了。同年、工業技術院四国工業技術試験所入所。2001年から産業技術研究所海洋資源環境部門主任研究員。つくば企画本部企画主幹、環境管理技術研究部門、健康工学研究センターを経て、現在、健康工学研究部門健康リスク削減技術研究グループ長。ホウ素同位体に関する研究に従事。現在は、有害陰イオンに対して選択的な吸着剤、健康リスク物質を削減するための技術開発に従事。査読者との議論議論1 製品スペックの設定質問(村山 宣光:産業技術総合研究所先進製造プロセス研究部門)製品スペックについて、「製品のスペックを明確に設定することで、企業のノウハウを外部に漏らすことなく研究開発を行う姿勢は、技術力のある会社とお付き合いをする上で重要かもしれない。」は大変参考になる指摘だと思います。今回の研究開発では、製品スペックの設定において、どの機関がリーダーシップを取ったのか、また、製品スペック設定から各要素技術の目標設定へのブレークダウンにおける工夫等をお聞かせください。回答(苑田 晃成)謝辞に記載していますように、今回の研究開発では研究代表者であった産総研の廣津主幹研究員(現、副研究部門長)のリーダーシップにより製品のスペックが設定されました。「2.研究開発の目標」のところに記載しておりますように、製品のスペック設定において、既存の製品と競争して勝てるものを目標に設定し、そこから各要素技術へのブレークダウンが行われました。特に、流速に関しましては、SV=20という数値が掲げられ、何の確証もないまま実験をするしかありませんでした。結果的に、カラム体積あたりの処理量が少なくなりましたが、水道水基準を満たす飲料水を製造することができました。議論2 製品化されなかった理由質問(景山 晃:産業技術総合研究所イノベーション推進本部) この論文は、企業と共同で行った緊急時に飲料水を供給するための硝酸イオン選択吸着「材」の開発を示したもので、統合的な研究開発を進めたことで技術的には目標を達成しています。その一方で、企業の最終判断で浄水システムの製品化は見送りとなっています。その理由として、技術目標だけでなく競合技術との総合コストの比較や市場の大きさ等も考慮すると、結果的に目標設定があまかったということはないのでしょうか。回答(苑田 晃成)一つの原因は、「4.コンソーシアムのメリットと事業化に向けた残課題」に述べたとおり、リアルタイムモニタリング技術の開発を同期させておらず、ユーザー側で使用の可否を判断できないことです。また、当初の目標設定で既存のROシステムと明確に異なる製品ターゲットを設定して研究開発・試作を進めました。しかし、研究開発の終了時点で振り返ってみると、技術開発の目標値だけでなく、1)市場サイズの予測、2)コスト設定、3)市場展開イメージの策定等において、当初の差異化点が必ずしも十分ではなかった、すなわち、目標設定が結果的に十分でなかったことが考えられます。
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