Vol.4 No.3 2011
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研究論文:緊急時に飲料水を確保するための技術(苑田)−154−Synthesiology Vol.4 No.3(2011)3.2 成形技術(機能の維持)粉末吸着剤を成形する場合、吸着剤とバインダを混合するだけの通常法だと吸着剤の表面をバインダ成分が覆い、吸着剤の性能が著しく低下する。海水からのリチウムイオン採取用吸着剤において液中硬化法による成形を行ったが、吸着剤性能の6割程度しか発現できなかった[3]。帝人エンジニアリング(株)の開発した「非接触担持法」[4](帝人エンジニアリング(株)の研究員が産総研四国センターに常駐して数年間共同研究を実施)においても大量に処理することは難しく、一つの課題となっていた。実際、ラボスケールではうまくできていた吸着材が、工場の大きな装置を用いると全く硝酸イオン除去性能が発現しないという事態が発生した。産総研で詳細に検討した結果、工場で使用している水(井戸水を直接使用)が怪しいという結論に達し、純水ラインを用いることで改善できた。硝酸イオン吸着剤は炭酸イオン選択性が高いため、炭酸イオンを含む大量の井戸水で硝酸イオン選択吸着材を洗浄していた際、イオン交換サイトがすべて置換され、硝酸イオンに対して不活性となってしまったことが原因であった。硝酸イオン除去性能を発揮できなかった吸着材を高濃度の食塩水で再生する検討を行い、再生が可能ということが判明し、使用済み硝酸イオン吸着材が繰り返し使用できることが分かったことは、思いがけない成果の一つとなった。しかし、浄水システムとして製造できる飲料水以上に大量の純水を必要とするため、平常時に再生するとしても用途が限定されることが分かった。また、炭酸イオンが硝酸イオン汚染水に共存すると硝酸イオン除去性能が低下することが予想できる。4 コンソーシアムのメリットと事業化に向けた残課題(アウトカム実現のための構成的方法)企業と共同研究を行っているだけでは、なかなか製品化に至る研究は難しかった。コンソーシアムを設立し、研究開発目標を共同で策定し、硝酸イオン吸着「材」を開発した。メリットとして、参画した産学官それぞれが連携のための接着剤としての研究資金を獲得したことと、製品化を強く意識することが挙げられる。公的資金を使って研究を行うことで、民間企業に対してタイムリミットと責任が発生し、結果として提案書を作成した際の数値目標を達成し、基本性能をもつ試作機(図8)を示すことはできた。製品化に向けて、3年間フォローアップ研究を行ったが、この浄水システムが有効に使用できるか否か瞬時に判断するシステム、および浄水能力をリアルタイムモニタリングするシステムの開発が残されており、事業化主体となる帝人エンジニアリング(株)では、2010年度で、本製品の開発行為は終了となった。5 おわりに(結果の評価と今後の展開)到達度の自己評価について、結論から言えば、4合目程度となった。繰り返しになるが、商品化のための解決すべき課題はこの浄水システムが有効に使用できるか否か瞬時に判断する機能の付与と、浄水能力のリアルタイムモニタリングである。これらの課題を解決するため、引き続づいて地道に研究開発に取り組んでいきたい。この研究をとおして最も感じたことは、「技術は人にあり、技術の継承は組織の責任」ということである。共同研究で協力していただいた人の中には、いわゆる「団塊の世代」で、現場の第一線を退いたがピカイチの技術を持っている方がいた。職人の匠の技があればこそ達成できた事もあり、組織がその技術を継承できなければ技術は消えてしまう恐れがある。産総研にしても同様で、プロジェクトの際に実際に手を図7 機動的浄水システムの特徴とフロー図 機動的浄水システム特徴・機動型・メンテナンス容易・拡張性・低騒音ヘッド差浄水原水塩素殺菌有害イオン除去カラム有機物除去カラム(1 µm)(50 µm)微粒子除去フィルター貯水タンクガードフィルター4.2 L (SV=20 /h) 図8 機動的浄水システムの試作機(ハノーバ・メッセ2008に出展)ハンドポンプハンドポンプカラム2(イオン除去)カラム2(イオン除去)カラム1(有機物除去)カラム1(有機物除去)フィルター2(1 µmφ)フィルター2(1 µmφ)フィルター1(50 µmφ)フィルター1(50 µmφ)
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