Vol.4 No.3 2011
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研究論文:緊急時に飲料水を確保するための技術(苑田)−153−Synthesiology Vol.4 No.3(2011)2 研究開発の目標2006年度の地域新生コンソーシアム研究開発事業に、帝人エンジニアリング(株)と産総研を中心に、大学、公設研、地元中小企業(協和化学工業(株)等)と共同研究体を組織し、「分離機能性ナノ粒子の非接触複合化による機動的浄水システム開発」という課題を採択いただいた。産総研では、平常時は飲用不可となっている硝酸イオンで汚染された地下水を緊急時に飲用可能とするため、硝酸イオン選択吸着剤を用いて硝酸イオン除去システムの開発[2]を行った。実用化時の商品イメージとして、社会的要請を満たすために以下の目標を設定した(図6)。1)価格:システム1台あたり200万円(既存の商品より安めの設定)2)製造量:システム1台あたり飲料水20トンを1日で製造(一人3 Lとして約6千人分)3)水質:水道水と同程度(水道水基準の50項目を達成) これらを達成するため、以下の目標をプロジェクト終了時に達成するべく設定した。1)プロトタイプ:実機の1/10の製造能力(2トン/日/台)2)高速処理(83 L/時間/台以上):1時間あたりカラム体積(約4 L)の20倍以上の速度3)機動性・小型化(スーツケースサイズ):一人で簡単に移動可能な大きさ・微粒子除去フィルター(クリプトスポリジウム対策、1μmフィルター)、有機物除去カラム(臭い成分等)、硝酸イオン除去カラムの組み合わせ・省エネ:電気・エンジン等動力源を用いず、人力のみを想定(低騒音)・操作性:単純な原理とユニット化によるメンテナンスの容易性4)硝酸イオン除去:飲料水基準(<10 mg/L)を達成できる技術開発研究開発のシナリオは、産総研が要素技術として持っている「硝酸イオン選択吸着剤」(図3)の機能(吸着容量および選択性)を再現して大量製造する技術を確立(協和化学工業(株))し、帝人エンジニアリング(株)の非接触担持成形技術(図4、図5)を用いて、その機能を維持したまま硝酸イオン除去用吸着材を製造するというものであった。また、帝人エンジニアリング(株)は、機能性物質として、粉末活性炭を同様に、非接触担持成形することで水処理に関するもっと大きな市場を狙っていた。二つの機能(有機物除去と硝酸イオン除去)をもつ緊急時浄水システムとしての製品は、帝人エンジニアリング(株)主導で、スーツケースサイズの試作機(無動力、手動ポンプ、ユニット化)を作成するという明確な目標となった(図7)。3 硝酸イオン選択吸着「材」(アウトカム実現のために必要な要素技術課題)3.1 大量製造技術(機能の再現)これまで、類似の化合物を大量製造した経験を生かし、協和化学工業(株)で、産総研の合成方法をベースに工業的手法を取り入れて大量製造に成功した。硝酸イオン選択性と結晶性(XRDのピーク強度、半値幅より判断)は経験的に正の相関があるものの、協和化学工業(株)では評価できない硝酸イオン選択性を産総研で評価することにより、合成の最適条件を見つける事ができた。また、成形する際に、ノズルの穴を詰まらせないようにするため、吸着剤の粉砕・篩い分けに関しては協和化学工業(株)のノウハウを活用し、帝人エンジニアリング(株)の要求するスペック(粒径45μm以下)を達成できた。製品のスペック(硝酸イオンの吸着容量>1.7 mmol/g-粉末吸着剤、選択係数≒3000)を明確に設定することで、企業のノウハウを外部に漏らすことなく研究開発を行う姿勢は、技術力のある会社とお付き合いをする上で重要かもしれない。図5 非接触担持成形の模式図 図6 要素技術と研究目標の鳥瞰図粉末吸着剤の表面に多孔性ポリマーが接触していない。粉末吸着剤ポア多孔性ポリマーマトリックス研究目標1.7 mmol/g吸着容量:4 Mg-AI LDH10 kgスケール大量製造粉末性能の8割以上繊維状成形200万円/台価格実用化時プロジェクト終了時・大量製造技術・粒度制御・管理技術機能性無機材料要素技術・硝酸イオン選択吸着剤・選択性評価技術 イオン選択吸着剤 ・耐薬品性、安定性 ・非接触担持成形 ・有機物除去機能性ポリマー材料基準値達成技術の開発硝酸イオン・小型化(スーツケースサイズ、カラム約4 L)・省エネ(無動力・手動)・操作性(ユニット化)機動性(SV=20)高速処理実機の1/10水道水と同程度水質20トン/日/台製造量ユーザー:地方自治体等要素技術と研究目標とシナリオ機動的浄水システムの開発帝人エンジニアリング協和化学産総研機能を維持機能を再現

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