Vol.4 No.3 2011
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研究論文:人の認知行動を知って製品やサービスを設計する(赤松ほか)−149−Synthesiology Vol.4 No.3(2011)ユーザビリティの研究、日常の行動選択の研究等を行う。現在、産業技術総合研究所サービス工学研究センター主幹研究員。この論文では、認知的クロノエスノグラフィ法の開発と適用を担当した。査読者との議論議論1 筆者らの考え方と行為の強調コメント(小野 晃:産業技術総合研究所)この研究は大変興味のあるもので、筆者らは構成学の新しい学問領域を作りつつあるように見えます。それに対して、この論文の記述がやや解説的、平板的になっているのが気になります。筆者らがどういう意図で、何を選択し、何を決断したかについて、筆者らの考え方と行為を強調して記述していただいた方が、読者は構成学としてのこの研究の意義をよりよく理解できると思います。回答(赤松 幹之)この論文は自分たちの行ってきた研究を構成学としてとらえ直すだけでなく、構成学の全体像をおぼろげながらも考えながら、この研究を位置付けることを目指して執筆したものです。そのために、そもそも製品開発とそのユーザーである人間との間をつなぐ考え方をレビューしたうえで、自らの研究を位置付けようとしたことから、やや解説的な記述が多くなってしまったものです。そのために、主張点が不明確になったと思われますので、主張すべきところは明確になるように表現等を修正しました。議論2 認知的クロノエスノグラフィ法の検証質問(小野 晃)認知的クロノエスノグラフィ法(CCE)の興味ある研究事例が二つ載っており、成果が着実に蓄積されていると思います。一方それらの成果をカーナビの設計や野球興行等に適用したのち、ユーザーによる評価を受けて検証するところまではまだ至っていない状態と理解してよろしいでしょうか。一方、これまでのCCEの研究方法が十分妥当であったのか、あるいはそうでなかったのか等、現時点でこれまでの研究成果をどのように検証・評価したらよいでしょうか?質問(持丸 正明:産業技術総合研究所デジタルヒューマン工学研究センター)量的な検証を議論しない点で、この研究の方法はプロセス標準の考え方に似ていると感じました。プロセス標準だと手続きと手続きを確認する方法が標準化され、プロセスをきちんとやったかどうかを現認できることと、さらにそのプロセスを考案した人以外が実施できることが不可欠です。これと同様に、CCEの手続きにしたがえば、誰にでもできるのでしょうか? 回答(赤松 幹之)この研究の成果を市場に出す製品やサービスに反映させるためには、製品開発のための時間がかかることもあり、ご指摘のように実際のユーザーによる評価にまで至っていません。技術やサービスが社会に受け入れられることが検証となるという立場からすると、現時点では検証できていないと言わざるをえません。しかし、社会に出す以前に、CCEで得られた知見に基づいて、製品化やサービス設計を実施するゴーサインを出すかどうかを決めるための根拠が求められます。そのために私達はさまざまな模索をしているわけですが、現在の私達の考えは、手順(プロセス)の妥当性と得られた結果の納得性で評価をすることです。手順の妥当性とは、例えば実現したい製品やサービスのターゲットユーザーの特性が抽出できる手順になっているかどうかです。しかし、プロセスを正しく行えば、いわば機械的に正しい結論に至るはずであると考えているわけでもありません。したがって、何らかの手順や結果の評価が必要と考えています。この評価は、対象となる製品やサービスをよく理解している人でないと困難である可能性がありますが、それはいわばピアレビューのようなものと言えます。このことから、このような研究においては、製品やサービスを良く理解している人、すなわちこれらを提供する企業の方でよく分かっていて判断できる方々との共同研究を行うことが重要であると考えます。議論3 他のSynthesiology論文の参照コメント(小野 晃)この研究論文では、Synthesiology誌に掲載された他の研究論文を引用しつつ、論を展開しています。構成学の研究が、内容は多様であっても、相互に得るものがあることが望ましいと査読者は考えますが、今回参考文献に引用してみて、それがこの研究に対してどのような効果を発揮したか、筆者の立場から表明していただけるとありがたいです。回答(赤松 幹之)この論文に記載した研究自体は10年以上前から行っていたものですが、当時から自分達の中では第2種基礎研究をしているという意識がありました。しかし、この研究は人間の行動特性を解明するという意味で分析的な研究であることから、要素技術を統合・構成して社会で使われるモノを実現するという構成的研究を掲載しているシンセシオロジーの論文としてどのような論旨で書くことができるか見通しがたっていませんでした。ところが、文献18として引用したワークショップにおいて、分野による構成学のアプローチの違いを議論し、物理学に代表されるような自然の原理が支配している分野の研究、要素技術を組み上げることを意識して行う工学的研究、そして製品の形で人に使ってもらうための研究という段階に分けて、それぞれのアプローチの特徴を議論したことで見通しがつきました。というのは、材料系の研究で物性を追求することで何が実現できるかが分かってくるという研究アプローチに、私達の研究との類似性を見いだすことができたからです。分析によって人の認知行動が明らかになれば、どのような製品やサービスを実現できるかが分かってくるからです。よく知ることが、ものを作るための指針を得ることにつながるという点で共通していると言えます。私達の研究は人に使ってもらうための研究ですが、同じ人間生活分野であっても、まずモノを作ることを考える工学的研究と、私達のようなまず理解をすることから始める研究という対比ができるようになり、シンセシオロジーの論文としてまとめることができたと感じています。議論4 認知的クロノエスノグラフィ法の理論的背景コメント(持丸 正明)この論文の技術の中核となっている認知的クロノエスノグラフィの特徴が、先行する他の方法と比較してよく整理されています。引用文献を読むと、CCEが認知科学に立脚して作られたという理論的背景まで理解できます。この論文でも、理論的背景に触れていただき、この論文を読むだけで理論的背景が把握できるほうが読者に有益と思います。回答(赤松 幹之)CCEを開発した背景には、ある状況下での限られた手掛かりを用いた行動選択プロセスを事後にどのようにして把握するか、という課題を解決する必要があるとの認識がありました。実際には限られた手掛かりだけからの行動選択にもかかわらず、あたかも全体合理性にしたがった行動選択であったかのように記述してしまわないように、行動選択を行ったときの状態を再現し、その時と同じように作業記憶を使って認知プロセスを表出してもらうことによって、これを解決しようとしています。全体合理性による説明に陥らない方法は古くはバーバルプロトコル法にさかのぼり、回顧的インタビューやCCEも基本はこれに立脚していますので、3.1節の始めの部分に加筆して明示的にしました。なお、理論的背景に関心をもつ関連研究者のために、理論的な側面については注4)として追記しました。

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