Vol.4 No.3 2011
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研究論文:人の認知行動を知って製品やサービスを設計する(赤松ほか)−145−Synthesiology Vol.4 No.3(2011)である。このようにして、気の利いた情報提供の構造を明らかにすることができた。4.2 野球ファンの成長過程自動車運転における気の利いた情報提供では、知らない目的地へのトリップというシナリオを設定し、かつエリートモニターも作り上げる(すなわち育て上げる)研究方法であるので、シナリオ型のCCEと呼ぶ。これに対して、シナリオを用いずに、実生活場面での人の観察を中心としたアプローチもあり、それを非シナリオ型のCCEと呼ぶ。その例として、野球場での観戦行動の研究に適用した事例を示す。スポーツ観戦の機会を提供するサービスにおいては、まず野球場やサッカー場に足を運んでもらうことが必要で、その上でどのような体験を野球場等で提供できるかが課題となる。スポーツ観戦に訪れる人は、初めて競技場に来る人もいれば、何回も訪れているいわゆるリピーターもいる。ただし、このリピーターであっても、いつかの時点では初めて来た時があったはずである。その前は、テレビを介してスポーツ観戦する人であり、それがさまざまな体験や情報によってリピーターとなったと考えられる。どのようにしてリピーターに成長していったか、その遷移の構造を明らかにすることが研究の目的である。野球観戦のリピーターの野球の楽しみ方を決定するクリティカルパラメータを検討した。一つ目は野球場に行く目的や楽しみ方、二つ目は球団についての周りの人との情報交換の程度、三つ目は観戦における球団ファンとしての気持ちの強さ、四つ目はその人のパーソナリティ(行動性向)である。これらの観点から、球団のファンクラブの会員を対象とした1,000名規模のWebアンケート調査の回答を元に、30名のエリートモニター候補を選定した。この時に、アンケート結果のクラスタ分析から分かった「観戦は自分の楽しみのため」「家族で楽しむ」「楽しむが本格的ファンになりたいわけではない」の三つの楽しみのタイプからそれぞれ男女5名程度選定し、それぞれに他のクリティカルパラメータが異なるものが含まれるようにした。そして、30名に対してグループインタビューを行い、これに基づいて、野球自体を楽しむのか、応援することを楽しむのか、という楽しみ方の軸と、試合だけでなくファンサービスイベントにまで行くファンなのか、野球は好きだがあまり観戦には行く時間がとれていないのか、というファンの熟成度の軸からなる2次元平面上にこの人達をマップして、そのマップ上で偏りがないように9名をエリートモニターとして選定した。そして、エリートモニターに実際に球場への観戦に行ってもらい、その観戦の様子として、モニターの状態、ゲームの進行状態、スタンドの様子をビデオで記録するとともに、観戦中での身体の興奮状態を測るための生理指標として心拍数を計測した。この映像を見せながら回顧的インタビューを行って観戦時に感じたこと等を抽出するとともに(図2)、これを手掛かりにして各エリートモニターが過去にどのような観戦行動をとってきたのかについてもインタビューで調査した。これらの調査から、ファンのステージとしては、「野球を知らない/知っているがプロ野球の戦況には関心ない」といったプレファンの状態、「球団のことが好きになって球場に観戦に行くようになる」というファンの状態、そして「積極的に観戦に行き、自分の観戦スタイルを持ち、時間を作ってでも観戦に行く」というリピーターの状態の三つのステージに分けた(図3)。そして、プレファンからファンになるきっかけは、スター選手の入団、リーグ優勝への期待、たまたま誘われて行った球場で見たファンの応援の様子に驚き感動したこと、等が挙げられた。ファンからリピーターになるきっかけは、テレビでは伝わらない球場での一体感のような体験や選手についての詳細な知識が増えた時、家族や同僚等との一緒に観戦する仲間ができた時、等があることが分かった。そして、これらの遷移はいくつかのパスがあるが、「野球を知らなかった人」は球場に行ってみてその盛り上がりに驚いてファンになり、主体的に応援に参加する図2 野球ファンへの観戦後のインタビュー

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