Vol.4 No.3 2011
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研究論文:人の認知行動を知って製品やサービスを設計する(赤松ほか)−143−Synthesiology Vol.4 No.3(2011)選定する方法を考案し(上記の例では、AIST式認知機能検査を開発)、選定された異なるタイプの人の行動を比較することで、その仮説を確認するかたちで個性による行動特性の違いを明確にできた。この典型的なタイプの人の実験参加者のことを、エリートモニターと呼ぶ。エリートモニターを用いることで、個性に対応した製品・サービス設計のための手掛かりを得ることができる注6)。このように、個性の違いに対する仮説検証型の(アブダクティブな)研究方法と、回顧インタビュー法という研究方法を統合し、製品やサービス設計に有用な知見を提供する認知的クロノエスノグラフィ法を構築していった。エスノグラフィ研究がありのままを記述することが重要であるとしているのに対して、製品・サービスを設計するための構成的方法がとるべきアプローチにおいては、設計のためのパラメータとして使う重要な要素(クリティカルパラメータと呼ぶ)を見いだすことが重要であると考える。クリティカルパラメータとは、例えば、実験参加者がターゲットユーザーであるかどうかを判断するためのパラメータや、提示した情報を有益と感じてもらえるための情報提供のタイミング等である。そのために、ありのままの観察等によってクリティカルパラメータの候補が見いだされたら、そのクリティカルパラメータを統制したり、クリティカルパラメータが記録できるようにしたうえで実場面を用いた実験を行った。この時、ターゲットユーザーとなりうる典型的な特性を持った人や研究の関心の対象としての典型的な特性を持った人(例えば、熟練したサービス提供者)を適切に選定して実験参加者とすることで、誰に対して喜ばれる製品・サービスにつながるかを明確化できることから、実験参加者としてエリートモニターを選定したのである。3.4 研究手法としての実施手順上述のよう研究事例を通じて、研究の手法としてのCCEを確立して行ったが、研究手法となるためには、特定の研究者だけが実施できるものではなく、広く使えるものでなければならない。そこで、研究事例を再検討して、研究手法として使えるよう全体のプロセスを明確化した。個別の事例に立ち返ると必ずしも最適な手法をとっていたとはいえない所もあることから、それの改訂も含めて検討して、研究の実施手順を構築した。大きな流れとしては、以下のようになる。調査に入る前には、関心対象の生活場面における人々や人とものとの関係を観察・考察して仮説をつくり、それに基づいて適切な方法でエリートモニターを選定する。そして、実場面を用いていながらもクリティカルパラメータを意識した統制下で行動を行わせ、モニターの視点からの映像を、統制できないパラメータ等他の関連するイベントとともに記録する。記録された行動に対して回顧的インタビューを行って、認知行動過程を記述する。調査が完了した後、仮説の検証とともに製品・サービス設計のための知見を抽出する。手順の詳細は参考文献の[13][14]に記載されているが、研究実施者の行うべき次の6つのステップにCCEを整理することができる。(1)エスノグラフィや行動観察等の基本的な調査法を用い、調査対象とする状況下の人の行動選択の構造の概略を明らかにする。(2)これまでに明らかになっている人の行動特性や認知特性を参考に、(1)での調査結果において、人の行動のどのような特性要素や知識また環境要因が行動選択に関与するかを考察し、クリティカルパラメータを定めておよその因果関係の構造の仮説を立てる。(3)この仮説を基に、調査対象の集団を構成するさまざまな人達から典型的な行動特性を備えたタイプを特定し、エリートモニターの選別基準と調査法を策定する。(4)エリートモニターを選定し、関心の対象となる状況を再現したなかで行動を行わせて、行動の記録を行う。(5) 記録された行動を手掛かりとして行動選択過程を分析して、(2)で立てた仮説と照合し、仮説の適否を考察する。(6)調査結果が不満足なものであれば(2)に戻り調査法を再考して調査を行い、納得のいく結果に至っていれば、その結果から製品・サービス設計の参考になる知見を整理する。以上は、研究手法としての認知的クロノエスノグラフィ法の開発の経緯とその概念的な整理である。第4章では具体例について述べる。4 認知的クロノエスノグラフィ法の適用例4.1 自動車運転時の気の利いた情報提供運転を支援するために有益な情報提供をするカーナビを実現することを目的として、CCEを用いて自動車メーカーと共同研究を行った。有益な情報とは、運転者が嬉しいと思う情報と定義することができるが、そもそも実際に嬉しいと思える情報があるのかを検証することから始めた。機械であるカーナビと比べると、同乗している人間であれば嬉しいと思う情報提供ができるように思いがちであるが、実際は必ずしもそうではない。そこで、運転者が嬉しいと感じられる情報を提供できる助手席乗員を作り上げることを研究プロセスの一部とした。同じ情報であっても運転者によって嬉しいかどうかが異なることから、助手席乗員が運転者を良く知っていることが要件となる。したがって、単なる助手席乗員と運転者ではなく、気の利いた情報を提供できる乗員と運転者との関係をエリートモニターを決めるクリ

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