Vol.4 No.2 2011
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研究論文:超高精細映像送受信を支える光通信ネットワークの実証実験(来見田ほか)−101−Synthesiology Vol.4 No.2(2011)た光通信向けの要素技術を組み合わせて、超高精細映像に代表される大容量情報を要求に応じて配信できるネットワークの実証実験を行った。これによって、現在のネットワークを構成する装置群の消費電力や通信容量等の限界を超える新しいネットワーク技術の一提案ができた。この論文では、個別要素技術を組み合わせてその動作結果を得るまでの技術的構成の検討過程について述べる。2 光ネットワークに対する社会的要請日本国内のインターネット上の通信トラフィックが年率3~4割の割合で増え続けていることはよく知られている。この傾向が仮に20年続くとするとトラフィックは現状の1,000倍程度になる。その場合にはもちろん電力効率もそれ相応の改善が望まれる。インターネットの国内利用者数は2009年末までの集計で9,400万人を上回り、人口普及率は78 %となっている[1]。通信機器や情報端末の高性能化に伴いアプリケーションも充実し、インターネットに接続されたコンピュータ上(もちろん移動端末等も含む)の1クリックが大量のデータの送受信を生成するようになったことが根底にある。映像情報サービスもインターネットを通して提供されるようになっており、通信トラフィックの増加に対し電力効率を考慮してどのようにネットワークを構成していくかが大変重要な課題となった。中でも大容量データ通信を支えることのできる光ファイバー通信技術からなる光ネットワークをどのように構成するかが重要視されるようになった。これには社会的背景を中心とした次のような理由がある。これまでインターネット上の通信トラフィックの増加には通信装置を並列に増設したり、通信速度が高速な装置に入れ替えたりすることで対応してきた。しかし、高速電気信号処理を中心とした従来型の通信装置の増設は通信速度の増加に伴い消費電力も線形に増加することが問題となった(電力問題)。また、光加入者回線接続技術も進歩し、光ファイバーが自宅まで届けられるようになったものの、多様化する広帯域サービスを効率的に通信ノード(基地局)へ収容していくことが難しいという現状が認識されるようになった(通信容量とネットワーク構成問題)。これらを解決していくためには光の通信回線をどのように真の光ネットワークへと発展させ構成していくか、という点が重要になる。産業技術総合研究所(AIST)のネットワークフォトニクス研究センターでは、ユーザーとユーザーとの間を光のパスで直接結ぶ「光パス・ネットワーク」と名付けた新しいネットワークを提案し、上記の問題を解決するべく研究開発を推進している。特に大容量情報のリクエストに対し柔軟に光ネットワークをスイッチし、光パスを動的に確保するものを「ダイナミック光パス・ネットワーク」と呼んでいる。具体的には映像送受信、シリコン光パス・スイッチや分散補償等の技術開発を行い、各装置および装置群の適切な管理制御を基にして広帯域サービスを実現できる光ネットワークへと構成していくものである。図1がその概念図である。光スイッチをネットワークで活用するためには、アプリケーションに応じて光スイッチを制御する仕組みが必要である。すなわち、高精細映像サーバーやディスプレーを相互に接続、またビデオ会議システムを取り扱い、それらが光パスやストレージの情報を基に適切に管理制御される仕組みである。さらにシリコン光パス・スイッチや波長資源管理技術も導入し、デバイスからアプリケーションまで個別に開発される技術を集約して実現する垂直連携が欠かせない。このような取り組みにより、高速データ通信が多数の電気信号処理を介することなく実現され、大容量情報を低電力で扱うネットワークを構成することが可能となる。この論文ではこれらを構成する要素技術をどのようにシステムとして組み上げ、実証実験を実施したかを中心に述べる。ネットワークに顕在化している問題が段階的にでも解決された暁には社会的・経済的にもとても大きな利点を生み出す。自動車やロボット(遠隔手術等も含む)への情報提供や、テレビ会議やリモートセンシング等、あらゆるサービスへの通信基盤となるからである。これら新しい通信基盤はアプリケーションを中心に新しい社会的価値観を生み出す。例えば3次元映像を共有しながらのテレビ会議は出張といった人間の移動を減らすであろうし、高精細で臨場感あふれる映像サービスは現地へ実際に出向く必要性を減らすであろう。高速大容量通信基盤はテレイグジスタンス(遠隔存在感)、テレプレゼンス(遠隔臨場感、コミュニケーション)、テレイマージョン(臨場感通信)のいずれもの現実化を支える基本技術となることができる。3 実証実験のシナリオ一般に通信ネットワークは電気やガス・水道と同様の社会基盤(インフラ)であると言うことができ、既設のネットワークがない場所を除いて新しい光ファイバーネットワーク図1 ダイナミック光パス・ネットワークの概念図ストレージ・ネットワーク統合資源管理シリコン光パス・スイッチ波長資源管理データストレージビデオカメラビデオ会議用ディスプレイ高精細映像サーバー高精細映像ディスプレイ可変分散補償器可変分散補償器ダイナミック光パス・ネットワーク垂直連携シリコンフォトニクス技術コンディショニング光パスインターフェイス技術アプリケーションネットワーク
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