Vol.4 No.2 2011
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研究論文:水素センサーの研究開発(申ほか)−98−Synthesiology Vol.4 No.2(2011)なければ、単なる技術開発で終わってしまう。そこで私達は、「標準化先取り研究」というキーワードで水素センサーの規格作りを始めた。これは、製品または技術開発とそれに関する規格化を並行して進める、当時の経済産業省の政策でもあった。私達は、自ら開発した“水素選択性に優れた広い検知濃度範囲をもつ熱電式水素センサー”の性能を基に、2005年ISO/TC197(Hydrogen technologies)へ新規提案(NWIP)を提出した。さらに、議長国としてWG13(Hydrogen Detectors)を推進し、2010年6月に国際規格を発行することができた。これは、技術開発の成果を活かして国際規格を提案した一例であり、提案した規格内容の多くを満足する最も優れた検知技術が、私達の開発した熱電式水素センサーであった。しかし、当然のことながら草案をそのまま会議で通すことはできず、2005年に結論として得られた最終案は草案と大きく変わっていった。規格では、以下に示すような、水素検知器に対する要求性能の項目を決めることから始まった。・測定範囲および濃度校正、アラーム設定点・安定性(短期および長期)・応答・回復時間、選択性、被毒性・温度、圧力、湿度等の動作環境(標準的なセンサーテスト環境)・測定範囲以上の高濃度時の動作、電力変動、停電、過渡電圧最も議論された重要な点は、図6に示すガス検知濃度の測定範囲に関する考え方である。すでに存在する可燃性ガスの国際規格(IEC)では、検知器の最高検知可能濃度のみを明記し、これを検知範囲として定義している。キャリブレーションの際の許容誤差の要求は、この範囲の5%あるいは指示値の10 %のどちらか大きい方と規定しているため、低濃度での許容誤差が大きくなり、実質低濃度域の検知は想定していない。私達は低濃度から高感度で検知することの重要性を説明し、低濃度から高濃度まで十分な精度で水素漏れを検知するセンサーが使われるよう規格内容を提案した。これには高感度のガスセンサー技術に優れた国内メーカーが歓迎する一方、低濃度での検知を不得意にするセンサー技術を採用している欧米諸国から猛烈に反対された。議論の結果、ISO規格では検知濃度の絶対値は規定しないものの、検知濃度範囲として必ず最低検出濃度と最高検出濃度を宣言することを求めることとし、低濃度側をどこまで信頼して検知できるかという点を明確にした。6 まとめ私達は、水素ステーション等で活用する水素漏れ検知器として、熱電デバイス上に触媒を集積化し、可燃性ガスによる微弱な燃焼熱を熱電変換して検知する動作原理のセンサーを提案し、さまざまな技術要素を統合し融合することで、全く新しい熱電式水素センサーを開発した。これまでの技術の場合、ガス選択性がなく低濃度が検知できなかったことに対して、優れた水素選択性をもち、水素濃度0.5 ppmの低濃度から5 %の高濃度まで、優れた直線性の応答特性をもつ水素センサーを開発するに至った。また、技術開発の成果を活かし、水素センサーの国際規格(ISO)の策定を同時に進めた。開発した熱電式水素センサーのさまざまな分野での実用化はもとより、私達が提案した国際規格が広く普及することで、国際協力の促進と水素エネルギーの利用推進に貢献できると期待している。図6 測定範囲とキャリブレーション検知範囲を規格で明記するのは困難を極める。最終案を決める際に使われた検知濃度範囲を500 ppmから2 %までとした会議資料の日本語版。結局は、この案での最終合意に至らず、検知濃度範囲はメーカーの宣言によるものとした。試験ガス濃度の±6000 ppmあるいは± 25 %のどちらか小さい方以下爆発下限濃度メーカー宣言測定範囲内で3点以上メーカーの宣言事項(最低検知濃度と最高検知濃度を明示)メーカー宣言試験ガス濃度の±125 ppmあるいは±50 %のどちらか小さい方以下試験ガス濃度の±25 %以下4 %2 %1 %1000 ppm500 ppm100 ppm水素ガス濃度測定範囲キャリブレーションのためのテストガス許容誤差参考文献ISO 5725-1:1994(JIS Z 8402-1: 1999)Accuracy (trueness and precision) of measurement methods and results - Part 1: General principles and definitions 測定方法及び測定結果の精確さ(真度及び精度).定置型可燃性ガス検知警報器, JIS-M 7626, 日本規格協会 (1994).W. Shin, K. Imai, N. Izu and N. Murayama: Thermoelectric thick-Film hydrogen gas sensor operating at room temperature, Jpn. J. Appl. Phys. , 40, L1232-1234 (2001). M. Nishibori, W. Shin, L. Houlet, N. Izu, T. Itoh, N. Murayama and I. Matsubara: New structural design of micro-thermoelectric sensor for wide range hydrogen detection, J. Ceram. Soc. Japan, 114, 853-856 (2006).M. Nishibori, W. Shin, L. Houlet, K. Tajima, N. Izu, T. Itoh and I. Matsubara: Long-term stability of Pt/alumina catalyst combustors for micro-gas sensor [1][2][3][4][5]
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