Vol.4 No.2 2011
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研究論文:水素センサーの研究開発(申ほか)−97−Synthesiology Vol.4 No.2(2011)圧が発生できる熱電デバイスの設計が求められる。私達の開発では、これらのガスセンサーの構成の条件を、図5の右に示す高感度、安定性、高速応答等のユーザーのニーズから要請される具体的な数値目標で定めることができた。実際にセンサー素子を試作し、さらにその性能を評価し、目標値に対する達成度を確認するプロセスの中で構成要素を選択し、その組み合わせと統合を行った。構成条件から構成要素を選択する際には、過去の知識だけでは不十分で、実際に試作したデバイスでの評価結果が最も重要な指針となることを認識する場面が多い。私達の熱電式センサーの開発当初、触媒に関する論文報告等を過信して失敗するという経験を味わった。当時、白金薄膜の触媒をセンサーに載せていたが、過去の論文等から厚み数ナノメートルの薄膜が高い触媒活性を示すと認識していた。しかし、結果的には厚い膜の触媒が室温でも水素をよく燃焼した[7]。この教訓を活かす場合がその後にあった。マイクロデバイスに集積化した触媒は、触媒分野での常識である数wt%の貴金属担持量ではなく、20~40 wt%の貴金属担持量の触媒で高い検知能力を発揮することが分かった[8]。ガスセンサーの場合は通常の触媒の化学反応と違って、極めて薄い可燃性ガス濃度でも確実にガスを燃やす能力が要求される。そのガスセンサーという応用が構成要素を刺激し、結果として全く質の違うものを作ることができたのである。4.2 製品化へのシナリオ開発予算、研究所の設備と人的資源を投入して実施した研究開発の結果、具体的な論文と特許の両者をいかに収穫するかが次につながる重要課題である。さらに突き進み、得られた技術を実用化することが研究開発が完結する最終ゴールである。事業部を持つ組織ではないが、特許等の知的財産を事業会社等に技術移転することで研究開発を完結するのが産総研の本格研究だと考えられる。私達の試作したセンサーデバイスの量産技術開発では、幸いにも研究室での性能がそのまま量産化においても達成できた(前述した実用化思考の結果でもある)。半導体プロセスの関連設備を所有していない事業会社に対しても技術移転が可能となるように、私達は研究室での試作品製造だけでなく民間のファンドリ施設を利用した4インチおよび6インチのウェハプロセスを実施することで、量産化技術を実証した。まだ国内のファンドリサービスは営業実績が少なく、技術的な問題の他にも契約上の問題とサービスの検収の問題を含めて、当初は想定できなかった大変難しい実証プロセスであったが、実用化に十分な歩留まりも確認できたことで、実用化へ大きく前進できた。特に幸運だったのは、熱電式センサーは熱電パターンのゼーベック係数が最も重要なパラメータであり、この物性は比較的プロセスに依存しないことだった。そのため、センサーデバイス性能のバラつきを抑えた製造技術が確立できた。4.3 成果はシナリオを超える思いがけないセンサー性能は開発当初は想像できなかった新しいニーズへの展開を進めることができる。開発された熱電式水素センサーの数ppmレベルの水素漏れ検知能力は、水素漏れ検知器としてはオーバースペックである。しかし、それを活用し新産業分野を切り拓く挑戦的な研究開発事業を推進している。ヘリウムに代わって水素を用いる水素リークテスター用検知器がその一つである。真空装置のリーク検知、または製造品の気密性検査等にヘリウムガスを使っているが、ヘリウム供給への不安から、この代替ガスとして水素5 %窒素95 %のガスを利用する検査機器が最近普及している。熱電式水素センサーもこの応用に活用できる性能を持っている。また、人間生活を支える医療機器として、呼気中の水素ガスを計測するセンサーとしての応用展開を図っており[9]、これまでのガスクロと半導体式ガスセンサーを用いる300万円程度の高価なシステムに代わる小型センサーシステムの開発を進めている。このような新しい分野ではppm以下の水素濃度検知が要求されており、さらに一桁高い高感度化の達成が望ましい。現在、産総研技術移転ベンチャーとしても試作品を商業化しており、今後も水素ステーション等の水素関連施設だけでなく具体的なさまざまな分野への応用が期待できる。5 研究成果を活かした国際規格策定水素エネルギー利用技術の普及と深く関係する水素センサーの市場がどういうものかは、実用化にとって重要な問題である。現状は厳しく、水素ステーションでもほとんどこれまでのガスセンサーが採用されている状況であり、水素漏れ検知に特化した新しい技術がユーザーに受け入れられCatalystthermoelectric調査・活用呼気ガス分析リークテスター水素漏れ検知器構成要素の統合微細加工選択・集中構成 ・ 統合構成の境界条件国際規格評価方法の共有選択性高速応答安定性高感度センサー性能評価技術観察 ・ 分析センサー素子開発した熱電変換触媒伝熱電子状態ガス燃焼化学・物理 現象社会的な価値・応用図5 センサー開発における構成学的な要素とそれを構成するための境界条件の相関図
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