Vol.4 No.2 2011
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研究論文:水素センサーの研究開発(申ほか)−93−Synthesiology Vol.4 No.2(2011)策を出し続けることにより、水素漏れ検知応用において最も優れた性能を示す結果となった。これを実応用するにあたっての社会受容性の観点から、私達は水素検知器に関する国際規格の提案を同時に進めた。2 水素センサーに求められる社会的なニーズ(性能)クリーンな反面、爆発の危険を併せ持つ水素を安全に利用するためには、安全担保技術が不可欠である。水素ステーションを代表とする高水準の安全管理が求められる水素関連施設では、水素漏れ濃度の変化を随時モニタリングする水素センサーが要求される。水素を大量に貯蔵し、さらには別の機器等に移し替える水素ステーションの安全管理は、今までの社会にはない新しい技術への挑戦であり、以下に述べるこれまでの技術の弱点を見直す契機となった。市販されている水素センサーの多くは、接触燃焼式あるいは半導体式の動作原理のものである。これらの原理のセンサーでは、狭い濃度範囲のガスしか検知できないだけでなく、いずれの技術も水素を選択的に検知するには至っていない。半導体式センサーは超高感度の検知性能が達成できる動作原理であるため学術的な研究が多く行われており、ガスセンサーに関する論文の大部分を占めている。半導体センサーの感度を向上させるための材料開発を行うと、高感度が達成される一方でさまざまな環境ノイズにも応答し易くなる問題が生じる。さらに、センサー信号がドリフトする問題のために精度(表示値のばらつき)[1]が悪くなり、信頼性に欠けるものとなる。接触燃焼式センサーは寿命および安定性に優れているため広く利用されている。このセンサーの場合、触媒燃焼によるわずかな素子温度の上昇(=白金コイルヒーターの抵抗変化)を検知信号とする。触媒燃焼はシンプルな化学反応であるため、多少の環境ノイズが存在しても誤った信号出力は少ないが、信頼性と感度を両立させるのは難しい。接触燃焼式センサーではセンサーの抵抗変化分を検出信号としており低濃度での感度が著しく低下するため、実用的には1000 ppmから数%の検知濃度範囲で利用される[2]。図1に水素ステーションで必要とされるマルチレベルの安全システムのコンセプトを示す。広い濃度範囲を安定性よく検知できるシステムが構築できれば、設備全体のシャットダウンを回避し、水素濃度に合わせた高効率の運用ができる。さらに、ステーション等では、通常でも他の可燃性ガスや被毒性ガスが空気中に存在していることから、水素選択性や対被毒性も要求される。実際の水素ステーションでは、高濃度では接触燃焼式を、低濃度では半導体式を、それぞれ得意とする濃度領域に合わせて運用するところも多数存在する。小さな“水素漏れ”でも短時間で検知することを考慮すると、半導体式センサーを使えば良いと考えがちであるが、実際の現場では、低濃度での安定性の問題から半導体式センサーは参考用としてのみ利用し、接触燃焼式センサーを警報機として利用しているところもある。3 ガスセンサー開発での構成学的要素3.1 三つの性能に対する三つの技術要素:センサー素子作製私達は触媒燃焼と熱電変換技術を組み合わせた全く新しい原理の水素ガスセンサーを提案した。このセンサーはこれまでの接触燃焼式センサーと同様に触媒上で生じるガスの燃焼発熱を用いるが、素子全体の温度変化を抵抗変化としてとらえるのではなく、素子内部の局部的な温度差の変化を熱電変換原理で電圧信号に直接変換するものである。私達はこれを熱電式センサーと名付けた。図2に、ガスセンサーに求められる基本的な三つの検知性能である3S、ガス選択性(selectivity)高感度(sensitivity)安定性(stability)と、この研究での技術要素との相関を示す。①新しい原理、“知識の融合”:熱電変換原理は、これまでの技術で実現できなかったガス選択性および検知範囲を可能にした最も重要な技術要素であり、開発当初からセンサー素子開発の土台となった[3]。②微細加工技術:低濃度ガスによる微小な熱量でさえ信号として利用するために、シリコンの異方性エッチングを代表とする微細加工技術を用いて、マイクロカロリーメーターとなるセンサー素子を作製した。③触媒技術:マイクロデバイス上の熱電パターンの特定位置にガス燃焼に欠かせない高性能のセラミックス触媒部これまでの技術では安定的に計測できない濃度範囲漏れ検知センサー技術半導体式水素選択性が無い低濃度での精度が悪い接触燃焼式20 ppm、 人間の呼気中の水素濃度0.5 ppm、 大気中の水素濃度マルチレベル安全システムのため、広範囲濃度検知のセンサーが必要Safety Operation大気中の水素濃度4.0 %v/v、 LFL(爆発下限)1.5 %v/v、 設備全体シャットダウンの濃度1.0 %v/v、 システム機器シャットダウンの濃度5000 ppm、 高濃度のアラームレベル1000 ppm、 低濃度のアラームレベル電源Off強制換気作動図1 水素濃度に対応するマルチレベルの安全システムの概要水素は拡散が早く低濃度レベルから警報すべきであるが、これまでの技術は低濃度レベルでの安定性が悪く、水素選択性がない。
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