Vol.4 No.2 2011
25/66
研究論文:ヒューマノイドロボットのコンテンツ技術化に向けて(中岡ほか)−91−Synthesiology Vol.4 No.2(2011)ズメント産業)が想定されるでしょうか。またその場合に、他にどのような技術、機会や工夫があるとその産業がさらに育っていくと考えられますか。回答(中岡 慎一郎)HRP-4Cを用いた具体的なコンテンツとしては、論文で示した例以外にも、演劇や、成人式でのメッセージビデオ、見本市における製品紹介等を実際に行ってきました。また、2010年に開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議においては、日本の先端技術の展示会にてHRP-4Cが歓迎のあいさつを各国首脳に行いました。論文で示した例も含めて、このようにHRP-4Cのようなヒューマノイドが何かを「伝える」「提示する」「表現する」「演じる」といったことの応用範囲は広く、具体的なニーズをコンテンツの内容で考えていくことにはきりがありません。この部分はクリエイターの仕事となってくるので、今後、多様な分野のクリエイターの方々と広く議論していきたいと考えています。産業に関しては、まずは既存のコンテンツ産業やアミューズメント産業の枠組みの中でロボットが使われるようになるというイメージで考えています。そのような期待は、経産省の技術戦略マップ2010においても「アイドルロボット」として記述されており、影響を与える範囲として、音楽、映画、ドラマ、遊園地、観光の各産業が取り上げられています。これらのライブ・エンターテインメントの市場は1兆円(2007年)です。この中でロボット自体(ロボットのハードウエア・ソフトウエア・運用サービス等)の市場規模として、まずは国内で数十億円程度を達成することが目標となるかと思います。その後、「8.今後の展望」に述べた技術発展によってロボットの応用範囲を広げることで、この産業をさらに育てていければと思います。また、産業を育てる機会や工夫という点では、やはりクリエイターとの連携が重要になると思います。議論3 日本文化としての特有性質問(小林 直人)このようなヒューマノイドに対して感じるある種の親近感は、日本特有の文化に根ざしていると考えられないでしょうか。もし文化が異なった場合は、人間が感じる印象も異なると考えられますが、国際学会での評判や反応はいかがでしょうか。回答(中岡 慎一郎)国際学会での研究者から直接得られる評判や反応は、国籍を問わず好意的なものが中心でした。これは、技術を中心に評価していることや、もともとロボット研究者はロボットが好きなことからくるものだと思います。したがって、国によってどのように印象が変わっているかについて、学会の反応からはよく分かりません。一方、動画投稿サイト等のネット上で寄せられたコメントは、好意的な意見ばかりではありませんでした。その中で気づいたこととして、海外の人が書いたと思われる英語のコメントの中には「いずれ人を襲う」「戦争に使われる」といった趣旨のコメントも多かったのですが、日本語で書かれたコメントの中にはそのようなものはほとんどなく、この点では文化の違いのようなものを感じました。いずれにせよ、非常に多数のコメントが寄せられているので、それらの統計をとれば印象の違いに関する正確な傾向が分かるかもしれません。議論4 ヒューマノイドの技術的進化とコンテンツの魅力限界質問(小林 直人)現在はヒューマノイドが人間のように動いてコンテンツを作っていることが大きな興味を惹いていると思います。今後、技術がより高度になると、人間ができないこともできるようになると思います。コンピュータがチェスで初めて人間に勝ったときには興味を惹きましたが、その先は興味がなくなってしまったように、ヒューマノイドによるコンテンツにも人間の興味を失わせる限界があるような気がします。もしそうだとすると、その限界はどのようなもので、いつごろ到来すると考えられるでしょうか。あるいはそうならないためにはどのような工夫がいるでしょうか。回答(中岡 慎一郎)ヒューマノイドロボットを用いたコンテンツが人の興味を惹く要素として、「ロボット自体への興味」と、「コンテンツの内容への興味」があるかと思います。前者については、人間と変わらないところまで進化し、さらにロボットが人間を超えて進化していくことに関して、人々の興味はつきないかと思います。また、後者については、興味深い内容を実現するためにロボットの特徴や機能が表現や運用の面で役に立てばよいのだと思います。これについても、ロボットが進化していくことで人間にできないようなことができるようになれば、それだけコンテンツの表現や運用の幅が拡がり、より一層興味を惹くコンテンツ内容に繋がると考えています。議論5 ヒューマノイド研究開発の戦略質問(小林 直人)ヒューマノイド研究開発の戦略や方針の一つとして、本研究のようなコンテンツ・メディアとしてのヒューマノイド利用を先行させ、その利用に駆動されるかたちでヒューマノイドの運動能力や堅牢性・安全性等の基本性能を向上させ、これらの基本性能の向上をヒューマノイドによる生活支援を含む他の応用に繋げる方策であると理解しました。その戦略は妥当だと思います。一方で、人間の機能を支援する場合は必ずしもヒューマノイドである必要はないと考える意見は、依然根強いと思われます。人間自身の心理的側面も考慮して、ヒューマノイドが必要だという意見があればお聞かせ下さい。回答(中岡 慎一郎)人間の生活を支援するためにロボットにできる作業を増やしていけば、「1.コンテンツ技術としての人間型ロボット」の第2段落で述べた理由により、ロボットの物理的な形態は必然的に人間に近づくのではないかと考えています。また、人間に近い形態は人間を心理的側面から支援することに対しても有効であると考えられます。結局、ロボットにどこまで求めるかという問題であり、生活支援における高い要求に応えていくためには、多くの要素技術の発展に加えて、「ヒューマノイドという形態」も必要となってくると考えています。
元のページ