Vol.4 No.2 2011
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研究論文:ヒューマノイドロボットのコンテンツ技術化に向けて(中岡ほか)−85−Synthesiology Vol.4 No.2(2011)中心点(ZMP)としてキーポーズに対して明示的に指定することで、バランスのとれる範囲内で腰の水平動作を望みに近づけることも可能である。このような設計は自明ではなく、この考案に至ったことは課題の克服にあたって重要な成果である。さらに、この設計を実装することも難しい課題であった。ユーザーにシンプルなインタフェースを提供するその裏で、システムは足裏接地状態の検出、目標ZMP遷移、補間空間遷移、補助キーポーズの追加、目標ZMPに適合する重心軌道の計算といった多くの複雑な処理を統合的に行う必要があり、さらにそれが高速に動作する必要があるからである。このような実装上の課題を克服するにあたっては、私達が中心となって開発してきたロボット用動力学シミュレータ“OpenHRP3”[22]の技術も大いに活用することができた。シミュレータにおいて実装されているロボティクスに関する各種計算処理は、実行速度や精度の面で実用的なシミュレーションに耐えるよう開発が進められてきたものであり、本システムの実装においても有用なものであった。また、OpenHRP3のために私達が開発した動力学シミュレーション手法[23]は、二足歩行ロボットの床上での挙動を精度よく検証できるものである。これを本システムにも組み込むことにより、実装の妥当性をシステム上で直接検証できるようになり、開発の効率を高めることができた。本システムはHRP-4Cに対しても有効であることを確認できている。作成された全身動作は、3.3節で述べた歩行安定化制御システム[18]と組み合わせることにより、図5の例のように実際にHRP-4Cの実機でも安定に実行可能である。HRP-4Cのように足裏の小さい等身大ヒューマノイドでこのような複雑な動作を思いどおりに構築できることは、画期的な成果である。また、図6に示すような顔の表情変化も作成可能である[24]。本システムでは、頭部に対する操作結果をリアルタイムで実機に反映させることも可能としており、これを用いることで、CGによる完全な再現が難しい実機の微妙な表情の変化も、効率的に作り込むことが可能となっている。このように、本システムによってHRP-4Cの動きの表現能力を引き出すことが可能となるのである。4.3 モーションキャプチャを用いる手法CGキャラクタアニメーションにおいては、実際に人が行った動作をモーションキャプチャを用いて取り込む方式も広く用いられている。そして、キャプチャした人の全身動作を二足歩行ヒューマノイドの全身動作に適用する手法が中岡ら[25]によって開発されており、これを用いてHRP-2[6]による会津磐梯山踊りも実現されている。この手法と本研究で開発した手法とを比較すると、人の動作を再現することに関しては、当然ながら前者が適している。ただし、中岡らの手法の制約やロボットの動作能力の限界により、現状では人の動作を再現仕切れないことも多いことには注意が必要である。一方で、ロボットならではの動きを表現したり、ロボットの動作能力の限界内で質の高い動きを作りこむことに関しては、初めからロボットに対して直接振り付けを行っていく後者の手法が適している。さらに、前者は専用の機材やスタジオに加えて望みの動作を行うスキルをもつ演者も必要とするが、後者はそれらを必要とせず一般的なPC上で利用可能なため、より手軽に利用可能となっている。以上の特徴を考慮すると、ヒューマノイドを用いた新たなコンテンツの創造とその利用の拡大という目的に対しては本研究の手法がより基本となるものであり、今回の成果によりこれを初めて実現したことには大きな意味がある。一方で、モーションキャプチャを用いる手法も有用なものであり、両者を統合的に使えるようにすることが今後の課題である。5 音声表現支援技術ロボットの発する音声もコンテンツにおいて重要な表現要素となる。発声の形態については、人間の声帯を模した発声機構の研究もされているが[26]、これは肺に相当する部分も有する大きな機構となっており、現状ではHRP-4Cのようなヒューマノイドに搭載できるものではない。したがって、発声の形態としては適当な音声ソースをスピーカーから出力するのが妥当である。この場合、ロボットが発声しているように見せるためには、音声ソースに合わせてロボットの口元が動くこと(リップシンク)が必要である。また、音声ソースを得る手法としては、人間の声を取り込む手法と音声合成技術を用いる手法が考えられる。両者の特徴の差異は、4.3節で述べた動きの作成に関する二つの手法の差異と同様であり、その意味では、音声合成を用いる方が私達の目的に対してより基本となる手法だと言える。以上の考察から、音声表現に関しては、音声合成技術と連携し口元の動きも伴う多様な話し方や歌唱の表現を容易に作成可能とすることが課題となる。(a)微笑み(b)驚き(c)怒り図6 表情の作成例

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