Vol.4 No.1 2011
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−69−Synthesiology Vol.4 No.1(2011)編集後記この号の論文で取り上げた研究成果は、いずれも独創性に優れ、実用化が期待される技術ですが、技術がどのように進化して新しい技術として確立されるか、また、技術開発の実用化までの死の谷をどのように乗り越えるかという観点からは、異なる解釈になります。技術の進化という観点に立てば、「レーザー援用インクジェット技術の開発」では、新しい表面加工法であるエアロゾルデポジション法を成功裏に研究開発した経験に基づき、インクジェット技術の高度化に課せられた信頼性や、これまでの技術との差別化という課題を解決するソリューションとして、レーザー援用法を考案し実証試験を通じて微細配線技術として確立しています。また、「マイクロ燃料電池製造技術開発への挑戦」は、応用可能性の大きいセラミック集積化プロセスのアイディアで、燃料電池のコンパクト化を推進・実証する研究であり、別の技術との融合により技術が進化する例となっており、技術がどのように進化していくかを示す好例となっています。一方、死の谷を乗り越えるうえで、社会との接点をもち、社会に受け入れられるように研究開発している例として、「有機化合物のスペクトルデータベース」が挙げられます。データベースが広く利用されるようになるプロセスは、社会に受容されていくプロセスとして汎用的なものであり、その方法論を分析した好例となっています。また、「研究戦略の形成とそれに基づいた構成的な研究評価」では、戦略形成の一環として研究プログラムの目標とそれを達成するためのシナリオの設定が大切であることを強調し、その研究戦略に沿った研究評価を行うことの重要性を指摘しています。さらに研究評価をするにあたっては研究戦略と対比しつつ演繹・帰納・仮説形成による推論をもとに要素評価を組みあわせた構成的な評価法が重要なことを述べ、全体として死の谷を越える戦略とその評価の重要性を示しています。さらに、二つの討論会は、死の谷を越える汎用的な方法論に対して、技術シーズ側から技術の進化がどのようにイノベーションに結びつくかを議論している「オープンイノベーションハブに向けた技術統合の方法論」と、社会技術の出口としての社会との接点から、競争力の強化、シンセシスのレベルを上げる体制、出口を循環型社会に向ける設計科学の推進を議論している「日本のものづくりとシンセシオロジー」です。二つの議論が死の谷を越えるための方法論として、死の谷の入口側としての技術開発の進化の視点と出口側の社会技術としての確立の視点の二つの逆方向からの視点の議論であり、死の谷を越える汎用的な議論の両面をみることができます。今後、死の谷越えの方法論のシンセシスについて、議論の体系化を進めることの重要性が再認識されます。(編集委員 矢部 彰)
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