Vol.4 No.1 2011
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研究論文:レーザー援用インクジェット技術の開発(遠藤ほか)−4−Synthesiology Vol.4 No.1(2011)は大きく影響される。これまでのインクジェット印刷技術では、着弾したインクが基板の面方向に濡れ広がるため、インクの表面張力や粘度、基板の濡れ性を制御したとしても、液滴径より配線幅が広がってしまう。例えばステージ速度100 mm/s、吐出周波数30 kHzの条件では、液滴直径15 µmの液滴を接触角が60 °程度の基板に着弾させた場合、配線幅が50 µm 程度となり、液滴径の数倍に広がる[6]。そのため、幅10~20 µm程度の微細な配線を行うためには、液滴径は10 µm以下に小径化する必要がある。このことは、配線抵抗を一定に、すなわち、配線単位長さ当たりのインク供給量を一定としつつ、スループットを維持するためには、液滴径の減少分の逆数に対して吐出周波数を3乗倍と大幅に高くしなければならないことを意味する。しかし、インクジェットヘッドの吐出周波数を高くするにしたがって、①ノズルオリフィスに形成されるメニスカス(インクと空気の界面)が吐出により振動し、これが静止しないうちに次の吐出が起こると、吐出がとても不安定となる、②インクジェットヘッドのイジェクタ内のインクの加減圧に伴うさまざまな振動モードが発生する等、吐出が不安定となる等の問題が生じてくる。また、液滴径、オリフィス径、アクチュエータの変位量、インクの物性(表面張力や粘度等)等、多くのパラメータを同時に最適化する必要がある。このため、既存技術で限界となっている数十kHz程度の吐出周波数[7]を大幅に高くすることはとても困難である。すなわち、これまでのインクジェット配線技術では、配線の微細化とスループットの確保は相反するトレードオフの関係となっており、これを克服するためには液滴が基板に着弾した後の濡れ広がりを抑制するための技術開発のブレークスルーが必要となっていた。3.2 これまでの濡れ広がり抑制手段まず、私達は、着弾したインクの濡れ広がりというインクジェット印刷技術における本質的な問題の克服を開発課題と設定し、これまでの研究開発においてインクの濡れ広がりを抑制するためにどのような手段が検討されてきたか、またその結果としてなぜこれまでスループットの向上がなされなかったのかを以下に整理した(図4)。1)インクの改良による比抵抗の低減 インクの濡れ広がりの抑制方法を考える前に、そもそもインク材料をより低い比抵抗をもつ材料に置き換えれば配線抵抗を低くできる可能性がある。しかし、明らかにインクの比抵抗をその中に含まれる金属の比抵抗以下に下げることはできない。具体的には、現在の市販インクのナノ粒子銀インクの比抵抗は2−5×10−6Ω・cmであり、銀金属の1.6×10−6Ω・cmの数倍程度であることから、インク材料の改善による比抵抗低減の余地は数倍程度と少ない。したがって、インクの改良による配線抵抗の低減は、開発課題として設定しなかった。2)高粘度のインクの使用、液滴の小径化 高粘度インクを使用すると、前述したように、メニスカスの問題や吐出安定性を阻害する振動モードが起こることから、吐出周波数の低下すなわちスループットの低減につながる。また、ノズルが詰まりやすくなるという問題も生じてくる。液滴径を小さくする方法では、スループットの低下が避けられず、さらに、ノズルの小口径化に伴うノズル詰まりの問題が生じてくる。3)着弾後の濡れ広がりを抑制するための基板表面処理 基板表面を処理する方法は、インクの濡れ広がりを抑制しつつ配線幅を減少できる可能性をもつが、表面処理剤によってインクと配線の密着性を下げることにつながる。例えば、はっ水性をもつポリイミドのようなフレキシブルな基板上に水性溶媒の導電性インクによって配線を描画した場合、密着力は低くなる[8]。これを避けるためにインクの密着性向上を目指して、マスクを用いて親水面と疎水面のパターニングを行い、親水面のみにインクを塗布することが試みられているが[9]、これは結局、製造工程数が多くなることを意味し、トータルでのスループットの向上は達成できない。4)基板加熱によるインクの乾燥速度向上 インクの乾燥速度を上げるためにエネルギーを援用する方法として、これまで、基板加熱が試みられたが、基板を加熱すると、基板からの熱放射によりノズルが乾燥し目詰まりを起こすこと、基板着弾時に突沸を起こし配線にクラックおよび空隙が発生する等、プロセス上本質的な問題点があり、実用化には至っていなかった。 このように、インクの濡れ広がりの抑制による配線幅の解決課題 :解決手段 :解決手段 :基板加熱基板表面処理液滴の小径化インクの高粘度化インクの改良による比抵抗の改善バルク値による限界インクジェットヘッドとのマッチング小口径インクジェットヘッドの開発描画配線の密着性の低下ノズル詰まり配線・ドットの突沸低吐出周波数化単位長さ当たりのインク供給量を増加基板上に親疏水面をパターニング微小領域での熱量の制御低スループット化実用上困難インクの濡れ広がりを抑えるには実用的な配線抵抗値を得るには図4 これまでのインクの濡れ広がりの抑制方法と最終的に得られた効果
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