Vol.4 No.1 2011
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−48−Synthesiology Vol.4 No.1(2011)座談会:日本のものづくりとシンセシオロジーの時間フレームですが、時間軸上でゲノムのように進化する資質があります。常に10年、20年のアドバンテージを保てるように科学と技術を革新し続けて、それを絶えず社会価値化していけば日本のものづくりはそんなに悲観的に考える必要はない。これがテクノゲノムのルーツです。 死の谷を越える技術開発における汎用的な方法論について矢部 死の谷を越える技術開発において、日本の持っているものづくりの特徴を出すことが大事だと思いますが、どのような方法論があるでしょうか。それがシンセシスの一つの醍醐味という感じもしますが、いかがでしょうか。柘植 死の谷を越えるためには、私はイノベーション牽引エンジンの再構築が一つの解になるのではないかと思います。アメリカではかつてイノベーション牽引エンジンであった企業の中央研究所は10年以上前に崩壊し、今の牽引エンジンは、大学、大学を取り巻くベンチャー企業、それをサポートするベンチャーキャピタルです。教育と研究開発とイノベーションが三位一体となり種を生み出して育み、アーリーステージが終わった段階で大企業が投資してイノベーションを起こすというエンジン構造がアメリカでは根付いています。一方、日本も企業の中央研究所は崩壊し、NTTなどの国研も民営化されて、中央研究所時代は終わっています。研究開発法人や企業の研究所、大学も頑張ってはいるけれども、三つの研究組織の知の創造と結合機能が脆弱な状況にあり、教育と研究開発の連携も脆弱になっています。したがって、日本のイノベーション・パイプライン・ネットワークを強くすることが死の谷を越える汎用的な方法論になるだろうと考えます。イノベーションは、もし彼がいなかったら、あるいは、もしあの組織がこうしなかったらイノベーションは起きなかったというくらい、非線形であり、確率的です。ですから、汎用的な強化策としては、大学・研究開発法人・産業の三位一体的な連携強化が必要であり、教育・研究開発・イノベーションの三位一体推進構造の構築が必要です。教育も研究開発もイノベーションも、参加する人たちがUnder One Roofであることが大切ですし、こういう視点で日本型のイノベーション牽引エンジンの再構築をすべきだと思います。矢部 大学、企業、研究開発法人の間のインターフェースの機能がまだ十分できていない、それをUnder One Roofで実現するのが必要条件であるという理解でよろしいでしょうか。柘植 そうです。例えば大学から研究開発法人、あるいは研究開発法人から産業への価値のフローなりインターフェースも重視すべきです。平たく言えば論文にはならないが、社会経済的価値創造への貢献としては大変な価値がある。この価値も学術的な価値があるのだということを学術界が納得すること、それがシンセシオロジーのミッションだと思うのです。それが不十分であるために、学生も研究者もそこに情熱を燃やすことがなかなかできません。産業界は人事考課のときにその成果を認めているのです。彼はA事業とB研究所のあのニーズとシーズを結び合わせて、Xという新製品を生み出す原動力を作ったということを、企業では高く評価します。学術界もその価値を学術のテーブルで認め合うことがないと、産業と学術界との間の溝は埋まらないと思います。成合 昔、産業界の人から「基礎研究成果を得る努力やお金を1とするならば、実際の機械などの製品にするのには10倍の努力やお金が必要であり、それを売れる製品にするには、さらにその10倍の努力が必要である」と言われて、ものをつくるのは大変だなと納得したことを印象深く覚えています。これが死の谷だと思いますが、死の谷には、基礎研究成果を実際のものとして作り上げるまでの谷と、それを売れる製品にするまでの谷の二つありますが、それぞれ対象によって違いがあるような感じがします。第一の谷は、専門的知見をうまく組み合わせたり、統合したりするようなものですし、第二の谷は、社会的受容性に関わるものであろうということで、広い統合化が必要です。先ほど柘植先生が、三位一体の連携、特に大学との連携が日本では脆弱だと言われましたが、昔は大学の研究は真理の探求を目的とし、その成果は広く一般に向けて公開されるべきと言われ、企業のための研究は限られた歴史がありました。この20年間、実際に役立つ研究重視と言われるようになったのですが、まだ省庁間の壁を含めたやりにくさがあります。こういう壁を破って、うまく連携ができれば良いと思います。シンセシスのレベルを上げる有効な方法矢部 壁をどうやって打ち破るか、あるいはどうやって連矢部 彰 氏
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