Vol.4 No.1 2011
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−47−Synthesiology Vol.4 No.1(2011)座談会:日本のものづくりとシンセシオロジー日本のものづくりの特徴としては、機器・システムを開発する大企業とそれを支える個別技術を有する中小企業があるということです。日本が技術による本格的な発展を開始した1960年代、中小企業に地方から優秀な若者が金の卵として集まり、技術の基盤形成にかなり寄与しました。ところが、1980年代には地方からの若者も少なくなり、コンピュータ化、IT活用も進み、技術が高度化しました。しかし、苦しい中、中小企業が日本のものづくりの高度化に対応しているのはすばらしいと思います。柘植先生はこのような日本的技術の継承を「日本型テクノゲノム」と呼んでいますが、私の現在の心配は、産業がグローバル化し、激しい競争下において、日本独自の技術的な遺伝子情報が今後とも持続できるのかということです。いずれにしても日本の技術基盤をしっかりさせるために、広い分野の統合化、シンセシスが重要だと考えています。柘植 シンセシスの質は大きく分けると二つあると思います。世界の優れた個別の先端科学技術をオープンイノベーションで集めて統合化する「モジュラー型アーキテクチャー」と、個別の先端科学技術を複雑に組み合わせて社会経済的な価値を生み出す「インテグラル型アーキテクチャー」です。時間と、人と人・組織との間のコラボレーションも含めて価値を創造していくプロセスを考慮するならば、単にオープンイノベーションの時代だという一言では済ませてならないと思います。技術の持つゲノム性を意味する“テクノゲノム”というコンセプトは石井威望先生の言葉です。日本のものづくりは発展途上国に追い上げられ、活路はないのかという話題になったときに、石井威望先生は「資金と度胸さえあれば短時間で技術が移転できるものもあるだろうし、時間がかかる技術もある」と述べられました。生命体は環境の変化に対応し何万年という時間をかけてゲノム(遺伝情報)が変わります。技術には10年、20年交通システム、原子力発電プラント、宇宙システムなどのように空間的、物理的あるいは社会的広がりが巨大であり、そこに内包される多数の要素の相互作用が複雑で、その性能と信頼性が社会と経済に多大な影響を与えるシステムを表していますが、ライフイノベーションやグリーンイノベーションの創出は、まさに巨大複雑系社会経済システムの創成と言えます。そして、世界をリードする高付加価値ものづくりの命題とは、図1に示すように認識科学「あるものの探求」と設計科学「あるべきものの探求」の相互作用、およびそれぞれの知の統合をしていくことであり、シンセシオロジーの重要性はここにあると私は思います。矢部 巨大複雑系社会経済システムは、知の統合がないとつくりあげられない。統合にまさにシンセシスが関わってくるわけですね。成合先生、同じ論点でいかがでしょうか。成合 私は機械工学科を1962年に卒業しましたが、当時の授業では機械、材料、流体、熱の4力学とともに設計製図や実験が重視され、実際の機械システムについての授業も多く、これは明治以来の外国からの導入技術をさらに日本流に進めるということが教育の基本にあったのだろうと思います。実験や設計をするにしても、強度や回転機械の振動などを自分で全部計算するという、ある意味でシンセシス的な授業が残っておりました。ところが、1960年代後半くらいから工学部は基礎工学重視になり、大学では基礎を教え、専門は企業に行ってからということもあったかと思いますが、各専門分野の細分化が進みました。1977年に新構想として設置された筑波大学の工学分野では、基礎工学を大切にしつつそれを統合する設計を重視するとしていました。しかし、実際は研究も教育も基礎のほうに進んだ気がします。明治以来の海外技術導入から自主技術開発、そして現在のグローバリゼーションの中で、日本の特性を発揮した技術開発をしなければならず、シンセシスは技術開発を進める上で大変重要だと思っています。成合 英樹 氏「あるものの探求」 ・生命・人間、社会、 世界、宇宙等の 「あるもの」を探求 ・知の総量が増加す るに伴い、必然的に 細分化の道を辿る。シンセシオロジー : 構成学の重要性はここに在る「あるべきものの探求」 ・社会や人間の生活に 資するための社会的、 経済的価値の創造 ・日本と世界の持続的 発展という命題に対して 益々重要な科学「持続可能なイノベーション創出のミッション」相互作用と知の統合認識科学認識科学設計科学設計科学図1 「巨大複雑系社会経済システムの創成力」世界をリードする高付加価値ものづくりの命題

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