Vol.4 No.1 2011
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研究論文:研究戦略の形成とそれに基づいた構成的な研究評価(小林ほか)−24−Synthesiology Vol.4 No.1(2011)①(戦略では何をもともと重視していたのかという)戦略に示される方向性に沿って構成し、②評価側と被評価側の深い議論(ここでは仮説形成的推論が重要)を通して発展的な評価にまとめ上げていくこと、という対比をすることができると思います。議論2 構成的評価におけるアブダクションについてコメント(赤松 幹之)研究戦略形成においてアブダクションが重要であること、そして評価においても選択と集中が求められている場合にはアブダクションが必要になると主張されていますが、アブダクションは戦略形成において最も重要になると理解しました。ただ、おそらくそのことに対して、これまでしっかりとした議論がなされていないと思います。したがって、実際に仮説形成がどのように行われるものであるかが読者には分からないと推察します。具体的事例での戦略形成において、どのような仮説が導入されたのかが明記できると、読者の理解が進むと思います。また、仮説形成に関して、Y軸の研究の深さの評価においても、仮説形成的推論が必要になるとしていますが、具体的にはどのようなことでしょうか。回答(小林 直人)この論文のまさにポイントとなる点のご指摘を有難うございます。戦略形成に必要な仮説形成は事実的な仮説ではなく、こうあるべきという当為的な仮説であると思います。課題はそのような仮説をどのように形成していくことができるかにかかっていると思います。その仮説形成を実際にどのように行うかについて、記述を追加しました。また具体的事例での仮説形成についても記述を追加しました。なお、Y軸の研究の深さの評価においても、仮説形成的推論が必要になる点に関しては記述を追加しました。議論3 評価者の関与のタイミング質問(中村 和憲:産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門)研究戦略形成に基づく研究評価という点では、事前評価が重要になることから、評価の主体は研究戦略形成時から係わっている必要があるということになるのでしょうか。回答(小林 直人)基本的には戦略形成と研究評価は表裏一体の関係にあると思いますので、評価の主体は研究戦略形成時から係わっているのが望ましいと思います。ただし、研究戦略形成と評価は多少視点が異なりますし、PDCAサイクルの中でPとCが全く同じ主体で行うというのも望ましくないので、研究戦略形成と研究評価は一部委員が重なっているのが望ましいと思います。議論4 評価におけるフィードバックコメント(赤松 幹之)4.2節にてフィードバックの重要性を論じていますが、図式的には誰からも合意される主張だと思います。しかし、このフィードバックを書面を用いたオフライン的なフィードバックにしてしまうと、研究実施者と評価者との間での議論に基づく仮説形成の機会を失っているように思います。できれば、このフィードバックをどのように行うべきかの議論もあることを期待します。また、プログラムは5~7年と想定されているので、フィードバックループは5年のオーダのループを指していると推察します。しかし一般的には5年前のプログラムのレビューの結果を実際に反映させることは容易ではないと推察します。なぜなら、5~7年のスケールのプログラムにおいては、最終的に目標を達成したかを判断することはプログラム終了直後には困難なことから、すぐには次のステップへのフィードバックは難しいと思います。回答(小林 直人)ご指摘のとおりで、評価者と研究推進者は向き合うものではなく、「共に歩む」べきものであると思います。研究という行為そのものがまさに仮説形成とその実証の作業を繰り返すわけですから、仮説形成に関しての議論がないところでのフィードバックは意味が希薄になります。フィードバックサイクルについては、ご指摘のとおり、プログラムは終了後3年くらいたたないと評価が定まらないと思います。ただ、社会の中で研究開発や技術開発さらには制度開発等を行う場合、社会の要請から必然的に連続にならざるを得ないと思われます。具体的には欧州のFP7という枠組みは、7年間(2007年~2013年)のプログラムであり、2010年秋に中間評価が出た所ですが、これを踏まえて2011年には次の枠組みであるFP8(2013年~2019年)の事前評価を始めるとのことです。このようにプログラムは実際には連続しており、フィードバックも極めて短期間で行われているのが実情です。議論5 研究プログラムの評価と研究プロジェクトの評価コメント(中村 和憲)この研究評価手法を適用するためには、研究プログラムの戦略形成時にあらかじめ構成的研究評価を想定しておく必要があることから、これを想定していない一般的な研究プロジェクトへの適用が、必ずしも容易ではないと思います。回答(小林 直人)研究プロジェクトは、研究プログラムに比べてある意味で単純な構造をしています。そこでは、研究目的、研究手法、研究成果、想定されるアウトカムが小さな範囲に留まっていますが、研究プログラムとフラクタル構造を有しているとも言えます。例えば上記で述べた(1)進展、(2)深さ、(3)位相での3側面で評価は可能ですし、それらを構成した評価の方法も適用が可能だと考えられます。ただ、その推進は研究戦略中の研究プログラムの一要素として位置づけられるために研究戦略の事前評価の部分が簡略化できると思います。議論6 研究評価の事例についての検証コメント(赤松 幹之)研究評価についての論文ですので、実際にされた研究評価に対する評価があることが望まれます。具体例について、評価委員サイド、評価部サイド、被評価者サイドそれぞれからの検討・考察があると、論文自体が仮説検証型になって良いと思います。回答(大井 健太)2010年5月に刊行した「第2期中期目標期間研究ユニット評価報告書」の中で、外部評価委員、研究ユニット長、コーディネータからの評価制度についての意見等を分析し、第2期の評価システムの特徴と課題をとりまとめ、改善課題を整理しました。評価制度については、“外部評価委員を中心とする評価”、“産業・社会等出口を意識したアウトカム視点の導入”等、現行の制度を高く評価する意見が多く寄せられました。一方、今後改善すべき課題として、例えば、“ボトムアップ型研究、長期間にわたる研究等、さまざまな性格の研究開発への柔軟な対応”、“評価の負荷の軽減”、“評価結果のさらなる活用”等が指摘されています。これらの改善課題を踏まえ、第3期の評価システムとしてはアウトカムの視点からの評価を継続しつつ、さらに実効性を上げる方向で検討しました。産総研では研究評価を開始してからまだ10年も経っていません。ご指摘のように、よりよい評価制度に向け仮説検証をふまえて改善を図っていくことが重要と考えます。なお、今回の論文の産総研具体例の部分については、研究戦略に基づく構成的な評価のあり方という観点から現行の産総研の評価システムの課題を論じています。構成的な評価システムを実際に適用するためは、評価システムだけを切り出すのではなく研究戦略の策定、戦略的な研究推進と一体として制度設計する必要があり、より大きな枠組みでの産総研制度のモデル化と仮説検証の作業が必要と考えます。

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