Vol.4 No.1 2011
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研究論文:研究戦略の形成とそれに基づいた構成的な研究評価(小林ほか)−19−Synthesiology Vol.4 No.1(2011)レベルに大きく影響する。位相間の移動においては外部との連携(外部の知識、要素技術、製品化技術の利用等)による技術の融合が、アウトカム創出にむけ重要なマネジメントとなってくる。アウトカムの視点からの評価においては、研究開発および成果の全体像を的確に把握し、質の異なる成果を総合的に評価する必要がある。研究開発の全体構成の妥当性や有効性、異なる位相の研究開発サイクルを円滑に回すためのマネジメントの有効性、という観点からの評価も重要となる。 上述のように産総研の評価においては、結果的に構成的研究評価を取り入れていると考えられるが、その主要な特徴の一つである研究戦略に基づいた研究評価については、まだ課題が残っている。特に、産総研の研究開発を総体として今後評価するためにも、研究戦略のより緻密な形成およびそれとの対比に基づく構成的な評価が必要と考えられる。そのため、①研究戦略の最終ゴール、そこに至るシナリオの明確化とそれとの比較を基本とする評価軸(XYZ軸)の明確化、②ボトムアップ的な観点からの評価(担当課題の成果についてのアウトカムの視点からの帰納的な評価)とトップダウン的な観点からの評価(達成目標から担当課題に至る課題設定とロードマップの演繹的な評価)のマッチング、③異なる位相間の連関の明確化、④研究の性格(基礎、産業応用、政策対応、等)を考慮した位相軸(Z軸)上の評価方法の明確化、等の課題が残されていると言えよう。これらは上述した研究戦略の形成、研究プログラムの構成と実施、要素評価と構成評価等の課題と関連しているものであり、今後第3期における研究ユニット評価の中で充実していくことが望まれる[22]。5.2 長崎県の例―地域活性化のための科学技術振興の戦略形成と評価5.2.1 戦略的ビジョンとロジックモデル 地方自治体における公的研究機関は地域の産業振興という重要なミッションの一翼を担っており、国や大学、企業等で行われている研究開発と多くの共通の課題と独自の課題を有している。ここでは、筆者の一人(中村)が最近赴任した長崎県の公的研究開発における研究戦略形成と評価の例を紹介する。2008年のリーマンショックに端を発する世界的な経済危機からの回復が停滞する中で、人口減少や低県民所得等多くの課題を有する長崎県の企業や産地が厳しい競争に打ち勝ち、持続発展可能な社会を築いていくためには、ほかにない独自の地域資源を活用することが極めて有用であり、研究機関が社会ニーズを速やかにくみ取り、研究開発の課題設定に反映することが肝要である。そのためには、戦略的なビジョンを構築して、目指すべきゴールを明確に定め、それに至るシナリオを描く必要がある。ここでは、ロジックモデル[4]を活用して戦略的研究開発の推進を促した事例について述べる[23]。ロジックモデル活用の最大のポイントは、常に顧客を意識して、顧客に受け入れられる成果を創出するための研究開発を明確に設定することである。この一連の作業により、アウトカム創出のための戦略的な研究開発のシナリオが完成されなければならない[24]。5.2.2 長崎県科学技術振興局[25]のミッションと戦略形成(1)県の研究機関のあり方長崎県科学技術振興局は五つの研究機関(環境保健研究センター、工業技術センター、窯業技術センター、総合水産試験場、および農林技術開発センター)を統轄する組織として編成されている[26]。科学技術振興局のミッションは科学技術の活用により、①競争力のあるたくましい産業を育成し、②安心で快適な暮らしを実現することにより、将来に夢をもてる元気な長崎県にすることである。そのためには、長期アウトカムとして、産業構造の転換による長崎型新産業創造と集積が求められる。その要素として、新事業、新産業の創出とともに、既存産業が地域資源を活用した体力アップを成し遂げ、県内産業の生産高アップと雇用拡大を達成する施策を展開する必要がある。中期アウトカムとして、新分野進出や自社製品の開発、ブランド化、シェア拡大等による既存企業の一歩前進が求められ、短期アウトカムとして、県内企業の技術力の向上、省力化・コストダウン、マーケティング・デザイン能力の向上等が必要である。県の研究機関は大学等と連携しながら、基盤技術の高度化・高精度化、システム化のための研究開発、技術支援に加え、分野融合研究による技術開発、マーケティング・デザイン支援、企業ニーズに対応した支援等を展開する必要がある。以上の内容を、ロジックモデルを駆使して 【評価】・疾患リスク診断・低分子医薬・自律診断、 投薬システム、等・神経分化関連 遺伝子アレー・細胞アレー、等・神経分化 関連因子・イオン チャンネル、等外部の製品化技術外部の要素技術外部の知識キーテクノロジーキーテクノロジー・全体構成の 妥当性・ロードマップの 妥当性・アウトプットの質・キーテクノロジー の質・知識、技術の 達成度・製品化の可能性・マネジメントの 有効性【製品化技術の蓄積】【要素技術の蓄積】(バイオチップ 評価デバイス)【知識の蓄積】(脳疾患バイオマーカ)製品(疾患診断機器)人材・予算インフラ人材・予算インフラ人材・予算インフラ製品化技術の獲得製品化技術の構成要素技術の獲得要素技術の構成知識の獲得仮説設計・検証仮説設計・検証仮説設計・検証知識の構成図9 研究開発の位相進化と構成的評価の反映

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