Vol.4 No.1 2011
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研究論文:研究戦略の形成とそれに基づいた構成的な研究評価(小林ほか)−18−Synthesiology Vol.4 No.1(2011)な業務と位置付けられる。産総研では後者をイノベーションハブ機能と呼び[19]、研究戦略とともにイノベーションハブ戦略も立て活動している。5.1.2 具体的事例産総研では、戦略形成の結果として、達成目標を七つに大分類し、さらにそれぞれの達成目標の下にブレークダウンした戦略目標、戦略課題、重点課題、を設定し研究開発を系統的に進める体制を整えている。戦略目標から研究ユニットの課題に至るプロセスは、社会的要請、市場性等の外部環境要因、技術ポートフォリオ、コア技術の強み等内部要因の分析に基づいてトップダウン的に設計される。一方、研究開発から期待される成果は、研究開発のアウトプットからアウトカムに至るプロセスを個々の研究課題から見てボトムアップ的に設計する中で設定される。具体的な事例として脳神経情報研究部門の担当課題 “脳神経細胞機能分子を対象とするバイオマーカーに関する研究”について紹介する。この研究は、脳神経疾患に関係する細胞情報伝達に関わるイオンチャネル、受容体、細胞内情報伝達分子の分子動態の解明とこれらの機能タンパク質を特異的に認識するバイオマーカーの探索・同定に特徴がある。この担当課題のロードマップを図8に示す。ロードマップ上には産総研で行われる研究開発(マーカーの探索と機能評価、センシング基盤技術)から、アウトカム創出に向け企業等との連携による脳疾患診断・予防システムの開発(センサー開発、脳疾患リスク診断技術)について技術要素の年次展開が示されている。研究ユニット評価委員会は、大学、産業界、ジャーナリズム界等からの外部委員(5名程度)および内部委員(評価部首席評価役2名程度)から構成され、ロードマップやアウトプット成果、マネジメントの妥当性、適切性を審議し評価する。平成20年度(第2期中期目標期間5年間の4年目)の評価委員会では、このロードマップについて 「明解である」、「強みも明示されている」等肯定的な意見が多く適切と判断された。一方、一部の委員からは「全体ロードマップでの位置付けの明確化」、「マイルストーンの明確化」が望まれた[20]。アウトプットについては「独自の分子進化技術による新規ペプチドの創生」、「アリ毒やクモ毒等ユニークな生理活性ペプチドに関する成果」、「伝達物質受容体リガンドセンサーの開発」等が、臨床応用や神経機能解析ツールとして活用が期待される新技術として高く評価された。なお、本事例以外でもアウトカムの視点からの評価により、その研究ユニットの研究活動に有益な示唆や指針が得られたことを研究ユニット長が言及している研究ユニットが、界面ナノアーキテクトニクス研究センター、強相関電子技術研究センター等いくつかある。詳細は、参考文献[21]に記すが、前者の場合では、アウトカムの視点を意識することによって明確なシナリオを描くことができ、評価委員の適切な意見が戦略的研究開発計画策定に役立ったこと、後者では第1種基礎研究においてもロードマップを形成するという作業は研究進展の適切な論理的枠組みを組み立てる上で役立ち、また「新たな学理の構築」をアウトカムの一つとして設定することが適切であるという認識が得られたこと、等が述べられている。今後は構成的な研究評価により、さらに有益な結果が得られることが期待される。5.1.3 研究開発の位相進化と構成的な研究評価の反映上記の事例を研究開発の位相進化という観点からモデル化すると図9のようになる。実際には、“バイオマーカーの探索”、“センサーの開発”、“診断技術への応用”という位相の異なる研究開発が、異なる年次展開で並列的に進む。研究開発課題は、それぞれ“知識の蓄積”、“要素技術の蓄積”、“製品化技術の蓄積”のサイクルとしてモデル化できる。位相間の研究開発を繋ぐものがキーテクノロジーであり、この技術の質が新たな位相で展開する研究開発の・研究戦略と研究計画の策定・知識、技術の創出・橋渡し研究・産学官連携、ベンチャー、広報・産業人材育成、等社会生活企業、官公庁、大学、等外部機関の活動・経済的インパクト 市場創出、拡大 生産性向上 雇用拡大 ベンチャー拡大 GDB 拡大・社会的インパクト 環境の保全 資源、エネルギー 問題の解決 インフラの整備 災害の防止 社会意識の向上 健康 安全な生活 生活の効率化・産業への活用 新製品 新製造プロセス プロセスの改良 新事業の技術 品質の向上 研究の加速 産業人材の育成 国際的な信用・政策への活用 新政策、新制度 災害防止策への利用 環境対策・社会的な貢献 ネットワークへの貢献 技術の理解の向上・学術への貢献 新概念の形成 知識の進歩産総研の活動・予算・人員・装置・知識・技術・特許・論文・ソフトウエア・データベース・リスク評価書・標準供給・国家標準・国際標準・規格・地質図幅インパクトアウトカムアウトプットインプット 創薬ターゲットの絞込み創薬ターゲットの絞込み細胞機能評価イオンチャネル・受容体人工膜再構成バイオマーカープロテインチップバイオマーカー発現 細胞アレー探索・同定バイオマーカー 標的 イオンチャネル・受容体神経分化関連因子細胞増殖関連因子転写因子神経分化関連遺伝子アレー特性解析高機能化(特異性・親和性・低分子化)バイオマーカーナノセンサーバイオマーカーナノセンサー分子モデリング・可視化相互作用解析HT化統合生体機能評価デバイスセンサー搭載DDS自律診断・投薬システム薬剤有効性・リスク診断低分子医薬遺伝子・タンパク質機能発現ネットワークの解明バイオマーカーのチップ化・アレー化およびセンサー開発疾患リスク診断疾患診断・予防応用展開技術移転(共同研究)産総研の技術開発第2中期計画第1中期計画技術課題(達成目標)2020201220102008200620042002年図7 産総研における研究開発と成果普及のモデル図8 脳神経細胞機能分子を対象とするバイオマーカーに関する研究のロードマップ

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