Vol.4 No.1 2011
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研究論文:研究戦略の形成とそれに基づいた構成的な研究評価(小林ほか)−17−Synthesiology Vol.4 No.1(2011)Y軸の研究の深さにおいては、その研究の固有特性のそれぞれが評価されるが、個々の要素に関しては、その領域の専門家のさまざまな知識や経験に基づいた帰納的判断が大きな役割を果たす。総合的にはその研究の「卓越性」を判断することになるが、ここにおいても仮説形成的な推論が必要とされる。すなわち、研究の固有特性のうち新規性、独自性や論理的完結性は専門家によってかなり客観的に評価が行われるものの、それらに加えてその研究が有する作用性になると評価者の仮説的推論すなわちイマジネーションによる部分が大きい。それは、評価者がその作用性を含めた仮説形成的な推論を行うことによって、初めて研究の固有価値についての評価が成立するからである。なお、研究には予期せぬ成果を活かすセレンディピティが極めて重要な役割を担っていることが多い。それは戦略的計画では予測がつかなかったものであり、第2節で述べた研究の四つの特性のうち、①新規性と④作用性が極めて大きい成果と言えるであろう。この評価は研究の深さにおいて計画された範囲を大幅に越えたということで大きな評価を得ることができる。Z軸の研究位相の評価軸に関しては、社会的効果が評価指標(第一種種基礎研究の場合では学術界でのインパクトであり、それはY軸での評価と重なっている)になるが、より仮説形成的な推論や評価が必要とされる。なぜなら社会的効果は、科学や技術の研究そのものがもつ固有の価値に加えて社会が受容する価値が必要とされるからである。その判断には、研究の進展(X軸)、研究の深さ(Y軸)の評価以上に仮説推論的な要素が多いと言えよう。全体的な構成的評価を行うには、上記の各要素評価を総合的に捉えた上で、それから総合評価を構成しなければならない。その場合、すでに述べたように論理的帰結に依拠する演繹的推論、多くの具体的事例を基に結論を導き出す帰納的推論、および仮説形成を活用し、その研究成果の価値の可能性を検証する推論の組み合わせが重要である。4.3.3 総合的な研究評価構成的な評価に当たっては、研究の特性を十分に踏まえ、研究推進側と評価者が、到達すべきゴールを含む戦略や成果指標に関する共通認識の下、研究の進め方や成果に関する深い議論を行い、戦略で目指された成果目標と実際の研究成果の距離を確認しつつ最終的にその研究プログラムの実施の意義と効果を仮説推論的に議論・検証することが重要である。その過程をとおして“研究評価=仮説形成とその表現”と考えることができる。これはまさに創造的な行為である研究そのものとも密接に関係しており、研究評価は創造的な営みの一つであると考えることができよう。なお構成的な評価を実際の評価に当てはめるには、適切な工夫が必要である。これこそ研究推進(者)・研究基金提供(者)・研究評価(者)の三つのサイドの合意で設計を行うものである。この論文の提案をそのまま適用したわけではないものの、産業技術総合研究所(産総研)の第2期中期研究目標期間(2005~2009年度)に行われた「アウトカムの視点からの評価」の例では、progress(X軸)、depth(Y軸)、phase(Z軸)にそれぞれ関連していたと考えられるマネジメント評価、アウトプット評価、ロードマップ評価という要素評価を導入して、最終的に総合的な評価を行うという設計を行った[17]。しかし、これはこの論文で提案している、戦略との対比による要素評価には必ずしもなっていなかったことや、評価委員との議論には未だ深い議論が不足していたという点等があり、構成的な研究評価としては末だ発展途上にあったと言うことができよう。具体的には、要素評価とその適切な構成に加えて、研究推進側と評価委員側との発展的な深い議論の結果を組み込むことを含めて、総合的な評価システムを設計していくことが望ましい。5 構成的な研究評価の例5.1 産総研における研究評価の特徴と課題5.1.1 アウトカムの視点からの評価産総研の第2期中期目標期間(2005~2009年度)においては、研究評価検討委員会(委員長、平澤泠)の提言(2004年)を受けて、研究開発活動をとおした産業、社会への貢献の観点を重視し、「アウトカムの視点からの評価」を進めてきた[17]。その設計の過程で、①ロードマップ評価、②アウトプット評価、③マネジメント評価を、大きな要素評価の3本柱とした。この論文の構成的な評価の主要な部分は、これらの経験を基に考察を進めたものである。第4章にも記したが、結果的には、①ロードマップ評価はZ軸(位相)の評価に、②アウトプット評価はY軸(深さ)の評価に、③マネジメント評価はX軸(進展)に、対応していると考えられる。そして研究戦略形成に関連したロジックモデルとして、産総研における研究開発におけるインプット、アウトプット、アウトカム、インパクトの例によって示すと図7のようになる。産総研における研究戦略はすでに述べたトップダウン的な視点とボトムアップ的な視点の両視点から形成を行っている[18]。アウトカムはこの戦略との関連を踏まえて各研究ユニットで定義されたものである。アウトカムの視点から産総研の業務をとらえると、高度な知識や技術の創出に向けた研究開発活動がもちろん中心業務であるが、同時に成果を外部に橋渡しし、アウトカム創出に資する活動も重要

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