Vol.4 No.1 2011
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研究論文:研究戦略の形成とそれに基づいた構成的な研究評価(小林ほか)−12−Synthesiology Vol.4 No.1(2011)築」注2) [2]、我が国における「新成長戦略」注3) [3]、等はその例である。しかし、研究戦略の学問的基礎を与える「研究戦略学」は、まだ確立されたものがあるわけではなく、これからの大きな課題である。これまでの研究評価に関する研究では、この約20年間近くプログラム評価で行われてきたインプット、アウトプット、アウトカム、インパクト等の論理的連鎖を示す“ロジックモデル”用語2を適用する動きが盛んになってきており、研究活動もロジック・モデルに沿って評価を行う手法についての研究が近年進展してきた[4][5]。これは米国やカナダにおける公的資金による研究プログラムの評価手法として効果を発揮してきていて、研究を取り巻く外形的な論理構造を明確に捉えるという点で優れた手法であるが、研究の内容まで踏み込んだ評価は行っていない。一方、研究そのものを評価する手法としてはピア・レビューおよび計量書誌学的手法がある。前者は研究の内容や成果を同じ分野の専門家(ピア)が評価する手法であり、後者は論文数やその被引用度、特許件数等の研究成果に関する計量可能な数値によって評価を行うものである。現在はこれらの手法を組み合わせて評価が行われている例が多い[6][7]。しかし、これまで研究をどのような考え方で捉えて評価すべきなのかという基本的な観点からの研究は、必ずしも十分行われてこなかった。この論文では、研究の特性と言う観点から考察を始めて、研究戦略形成とそれに基づく研究評価に関する要素からの論理的組み立てにより、研究評価をどのように構成していくべきかという考え方の概略を示す。特に研究評価に当たっては、基礎研究や応用研究あるいはまた分析的な研究や構成的な研究等の特性にかかわらず、「構成的な研究評価」が研究の本質を評価する上でまた研究を進化させる上で重要なことを示す。2 研究の特性研究には、本来有している固有特性(Intrinsic Properties)があると考えられる。それは、①新規性(Novelty)、②独自性(Originality)、③論理完結性(Logical Completeness)、④作用性(Influence)、から構成されるということが可能であろう。①の新規性とは、特定の学術分野に限らず新たな学術的知見を付け加えることであり、②の独自性とは、研究そのものが独自の知見を提供し、新たな論旨を展開する特性である。すでに知られた現象に全く新しい解釈を与える研究は、新規性はやや低いかも知れないが独自性は高いと言えよう。③の論理完結性とは、一つの研究が明確な論理の積み重ねを経て完結した表現になっていることである。④の作用性とは、研究による作用がその学術分野(ディシプリン)の中で影響を及ぼすもの、ほかの学術分野へも影響を及ぼすもの(両者は少なくとも学術界の内部)、社会へ影響を及ぼすもの等に分けられるであろうが、研究の外部への影響・効果の強さを表す。後者の作用性を特に実際特性(Practical Properties)と呼ぶこととする。吉川の提唱した第1種基礎研究用語3は、ある学術領域で新しい知識を産み出す基礎研究であり、作用性が主としてディシプリンの中に留まっているものと考えられる。また第2種基礎研究は(さらに製品化研究も)作用性が社会への影響を与える実際特性を有する研究であるが、両者とも同じ固有特性の中で議論を行うことができよう[8][9]。ただしこの2種類の基礎研究がいつも截然と分かれているのではなく、一つの研究プロジェクトの中に両方の要素が含まれている場合もある。また、固有特性の作用性が短期的には同一ディシプリンに留まっていても、長期間の後には社会的な作用性をもつものがある。例えば現在GPS (Global Positioning System)衛星からの信号を受信する装置ではさまざまな時間的空間的補正を行っているが、それらはA.アインシュタインが20世紀初頭に唱えた特殊および一般相対性理論に基づいているのは周知の事実である。3 研究戦略と研究プログラム3.1 研究戦略の意義とその形成戦略とは「ある目的を設定し、その達成のために人材・資源・時間・情報等の諸要素を適切に割り当てると同時に、それらを有機的に結合・作用させて、全体として良好なシステムとして機能を発揮させる方策」と定義すれば、研究戦略とは、「研究の内容およびその作用性の目標を設定し、それを達成するために採用すべき戦略」ということができよう。研究戦略の形成においては、その戦略の目的(Goal)を達成するに当たっての具体的な研究プログラムを設定し、その目標(Target)とそれに至るシナリオ(Scenario)、研究プログラムを構成する個々の研究プロジェクトの目標までを想定するのが望ましい。研究プログラムは、平澤によれば「政策と研究プロジェクトを繋ぐ、構造化・論理化された政策の実施・展開・管理の単位」と定義されるが[6]、ここではより広く「研究戦略目的と研究プロジェクトを繋ぐ構造化・論理化された研究展開の単位」と定義しておく。したがって、実験素粒子研究のような第1種基礎研究においても研究プログラムが適用される場合があると考えられる。どこまで厳密に研究プログラムの目標やシナリオを設定するかは、研究推進者と研究スポンサー(公的研究にあっては国・社会)との合意で決定することが不可欠で、そこであらかじめ契約を行うことが必要である。また研究戦略

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