Vol.3 No.4 2010
8/74
研究論文:SiC半導体のパワーデバイス開発と実用化への戦略(荒井)−263−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)プロジェクトでは、SiC単結晶成長を開始していた電総研と2企業(昭和電工(株)、(株)デンソー、後期においては新日本製鉄(株)の参加)が集中研究方式でグループを結成し、研究開発を開始した。研究開発のアプローチとしては、結晶成長プロセスのエックス線トポグラフィその場観察手法とシミュレーションによる炉内可視化を主として採用した(図5)注3。デバイス作製ではウェハにミクロンオーダの貫通した螺旋状欠陥(マイクロパイプ)があると致命的になるので、プロジェクトの目標としては、マイクロパイプがない2インチの基板の作製と、外径4インチの結晶成長とを掲げた。重要な技術的貢献は、それまでノウハウとして公表されてこなかった結晶成長技術を学会等において科学的に提示したことである。開発された技術はプロジェクト終了後、結晶作製を希望する国内の企業数社に技術移転した。高耐圧・高パワー縦型パワーデバイスでは、基板結晶としてはできるだけ高濃度に不純物(通常窒素ドープでN型化)を入れて低抵抗化している。したがって、所望のデバイス特性を実現するためには、膜厚と不純物濃度を精密に制御してそのSiCの単結晶上に薄膜を形成するホモエピタキシャル単結晶薄膜成長技術は非常に重要である。京都大学の松波弘之教授のグループによりオフ角を導入することによって比較的低温度(~1600 ℃)で良質な成長ができるステップ制御エピタキシーが開発されていた。プロジェクトでは、定評のある海外のエピ装置を導入し、成長条件のチューニングによりデバイス作製グループに必要なエピ膜を供給した。一方においては、新規高速エピ装置の開発を行った。(これは後年、3インチ基板で約100μm/h以上の成長速度を実証した)。プロジェクト終了間際であったが、これまでのデバイス作製結晶面であるシリコン面に加えて、その反対側の面であるカーボン面で不純物を制御できるエピ薄膜成長技術を見いだし、MOSFETのチャネル移動度がシリコン面に比べて桁が違うほど大きいことを示し、カーボン面デバイスの基本的なデバイス特許を取得した(図6)。現在、まだカーボン面デバイスプロセスには解決すべき問題が残されてはいるが、実用化にとって重要な技術に育ってきている。SiCは熱酸化によってSiO2絶縁膜が形成できることが利点であるが、酸化によって得られるMOSFETのチャネル移動度がバルクに比べ極めて低い(通常の熱酸化ではバルクの移動度より2桁小さい)。シリコンプロセスで威力を発揮している不純物の熱拡散はSiCプロセスでは利用できず、高温イオン注入とその後の高温活性化プロセスが必要となる。デバイスに必要な低抵抗のコンタクト形成技術の開発も急がれた。またデバイス設計に必要なデバイスパラメーターが不確かだったり、揃っていなかった。集中研究方式では、これらの問題について系統的に取り組みデバイス・プロセスの基盤技術の構築に貢献した。必要な物性・プロセス評価については、大学や外部機関の協力を仰いだ。これらの結果は、分散研究方式におけるシリコンを上回る試作SiCパワーデバイスの性能実証とともに、デバイス技術開発という点で遅れていた我が国のこの分野における基盤構築に貢献した。このプロジェクトのもう一つの重要な特長は、実用化調査研究をシステム応用の研究開発に重心を置く別の協会((財)エンジニアリング振興協会)のもとに行ったことであった(「NEDOプロジェクト超低損失電力素子技術開発: 次世代パワー半導体デバイス実用化調査」(1998~2002年度)(財)エンジニアリング振興協会)。この活動により基盤研究分野と応用分野との交流が進み、パワーデバイスを産業応用に展開する上でSiCがシリコンに対して原理的に優位であることを見通すことができた。これらのすべての成果を広く一般に普及させるために単行本としてまとめた[4]。 0 . 5 n m 結晶欠陥を増やさないエピ成長技術の確立と新デバイス面(カーボン面)の開発TargetRon=1~3mΩcm2Vbd=600VField-effect mobility (cm2/Vs)POAPyro.+H2℃Tox=1100℃Tox=900Vg (V)86420150100500Vs127cm2/2 inch, thickness 10 µm 100 µm2-inch1 µm10(0001)C face0カーボン面のMOS界面移動度の酸化温度依存性 結晶品質・大きさ(口径・長さ)など成長結晶科学的手法で見る・ 数値解析・ X線その場観察ブラックボックス(黒鉛るつぼ)の中を 高周波加熱パワー、上下測定温度るつぼの構造、原料の量、圧力など 操作条件加熱コイル ~2200 ℃成長結晶断熱材~2500 ℃黒鉛るつぼ昇華法によるSiC単結晶成長へのアプローチ 新炉構造の開発経験則tpDsDbHts図5 SiC単結晶成長技術開発のアプローチ炉内構造等は学会でも発表されることがほとんどなかった。図6 カーボン面デバイス技術の開発カーボン面(C面)へのエピ成長技術の開発とその面上で作製されたMOSのチャネル移動度(エピ表面のモルフォロジー。水跡様のシミは画像のアーティファクト)。
元のページ