Vol.3 No.4 2010
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−314−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)対談:臨床医学研究とシンセシオロジー口 あ、そうなの(笑)。小野 それで、我々はISOやJISの安全基準まではいっていないけれども、一応の安全基準をつくってみようと。できるだけ公的な立場で、可能な限りの安全性を考慮し、この安全性に関してはクリアしたことを示そう、それを「パイロット認証」と言っているのですが、社会的な合意のもとで顧客は使ってみてくださいということを今やろうとしているところなのです。司会 筑波大学の次世代医療研究開発・教育統合センター(CREIL)の例なのですが、そこでトランスレーショナルリサーチをするときに、茨城県の開業医の先生たちのネットワークを利用して手伝ってもらっています。開業医の先生方にとって臨床研究のお手伝いをするということが先端技術に触れる喜びになっているようです。ロボットも「リスクはあるかもしれないけれども、評価してくださいね」ということで、一般の方々に最先端技術に触れる喜びを得ていただき、それでうまく回っていくというところがあるのではないかという気がします。小野 市民による社会貢献の一つですね。そういうことが医学のほうでも、我々のほうでも要るのかなという感じがします。司会 今のは一般ユーザーとお医者さんのレベルですが、患者さんはまた違うメンタリティが有りますね。口 患者さんも日本と世界を比べると、いろいろな仕組みの違いがあるから、それは無理もないというところもあるのですが、まず保険制度が違います。日本は皆保険ですから、皆さん、等しく治療も受けられる。アメリカでは、オバマさんが変更しようとしていますけれども、基本的にはプライベートに高額な保険料を払って加入します。治験は費用がかからないので、そこに人がドッと集まる。けれども、もっと本質的なところはボランティア精神でしょうか。欧米では、人の役に立ちたい、社会に貢献したいという、積極的なボランティア精神を強く感じます。日本は治験に参加してくださいということに対してのノリは悪いですね。司会 リスクとベネフィットのうちのベネフィットは主張するが、リスクはとりたくないという傾向が日本人にはあるように感じますね。小野 確かに、リスク・ベネフィットがうまく判断できないというのは至るところにあるような気がします。医療について、国民皆保険はすばらしい制度ですし、世界一長寿命も実現した。そういう成功体験があるものだから、このままでいけるんじゃないかと思っているのだけれども、そうは簡単にいかないよ、ということでしょうか。口 臓器移植やODAなどの話にも共通していると思います。自分たちも応分の負担をしなければいけないということですね。小野 日本は安心・安全のいい社会をいち早く実現したと思うのです。それは非常にハッピーであったけれども、理想の社会を実現したがゆえに次に進めない、次のエネルギーが出てこないという、今はそういう状況かもしれません。日本の良い点は良い点として、やはり変わらないといけないですね。司会 地球環境自体が変わっていくことにはたと気づいたら、もうついていけなかった、ということが起きかねない。研究者だけがひた走ればいい時代もあったのですが、今は社会的な合意のもとに、社会と一緒に、社会を巻き込んで、考え、行動していくときですね。どうもありがとうございました。本対談は、2010年7月2日、東京都千代田区にある産総研秋葉原事業所において行われました。略歴口 輝彦(ひぐち てるひこ)1972年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院、埼玉医科大学、群馬大学医学部精神神経学教室、昭和大学藤が丘病院精神神経科教授を経て、1999年国立精神・神経センター国府台病院副院長、翌年院長、2004年国立精神・神経センター武蔵病院院長、2007年国立精神・神経センター総長、2010年4月独立行政法人国立精神・神経医療研究センター理事長・総長現在に至る。日本学術会議会員。他に、日本臨床精神神経薬理学会(副理事長)、日本産業精神保健学会(常任理事)、日本うつ病学会(理事)等の会員。専門は気分障害の薬理・生化学、臨床精神薬理、うつ病の臨床研究。
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