Vol.3 No.4 2010
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−313−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)対談:臨床医学研究とシンセシオロジーん30施設くらい見つけておかないとできない。ところが、アメリカやヨーロッパでは、一つの施設で10例、15例できるのです。司会 それは病院の規模の大きさの問題なのですか。口 規模というよりも、その医療機関が臨床試験にどれだけ力を注ごうとしているかということです。今はCRCがかなり配置されて、雑用的なことを全部その人たちがやって、医師は評価するだけでよいというふうになったのですが、以前は医師が書類作り等々すべてやっていたので、臨床の時間に加えて、負担が大きく、協力するにも限界があったということがあります。平成20年に日本学術会議から「日本における臨床治験の問題点と今後の対策」という提言が出されていますが、我が国の治験実施体制の不備、そこに関わる医師たちのインセンティブが非常に低いという問題が指摘されています。もっと悪いことは、海外での試験は、初めてということで、その結果は比較的クオリティの高い英文誌のジャーナルに出るのですが、日本ではドラッグ・ラグで遅れているため、三番煎じくらいの試験を国内でやることになってしまうので、ほとんど名もないジャーナルに掲載するしかない。ただ、最近、やっとグローバルの中に日本が最初から参加して、少なくとも研究代表者は英文誌のオーサーの中に入るというふうになりつつあります。 臨床研究の推進には研究者のインセンティブとサポートシステムが必要司会 大学や研究所にいる医師たちにとって、臨床研究をするためのインセンティブはやはり論文でしょうか。口 論文と研究費です。ただ、研究費に制約があって、非常に使い勝手が悪いということはあります。小野 大変な問題がありそうですが、どういうふうに解決しようとお考ですか。まずは、ご自身のセンターの中でトランスレーショナル・リサーチセンターを成功させるということが一番であろうと?口 それがまず一番です。それから臨床に携わっている人たちが高いモチベーションを持てるようにすることです。臨床研究をするためには相当のエネルギーが必要になります。モチベーションを高めるためにいろいろな意味でのインセンティブと、コーディネーター的な存在を含むサポートシステムをつくる必要があるということです。TMCのコンセプトは、研究所の成果を臨床へという方向性を持ってつくられたものですが、逆の流れも必要です。つまり、医師がアイデアを持っていたり、こういう臨床研究をやりたいというときに、デザインも含めてサポートする体制です。小野 トランスレーショナル・リサーチそのもののオリジナリティや研究としての面白さというのはどんなところにあるのでしょうか。口 先ほどの筋ジストロフィーの研究は、うちの病院で第1号の臨床応用を行うことになります。病院もセンターでのオリジナルな仕事だからと協力的です。研究者にとってはものすごくやりがいがあって、しかも、発見だけで終わらず、それを臨床応用に具体化するところまで関われるので、モチベーションは高い。ただ、これがうまくいったので全国で数百例を対象にしてやりたいといったときに、果たしてどれくらいが協力してくれるか。そこは医師主導型の研究の成否にかかります。小野 医師主導型の研究によって小規模から中規模のところまでは持っていく。そこから、あとは製薬会社に渡してもいい、ということになりますか。口 そういうことです。社会が受け入れ、支える研究へ司会 臨床研究は、物事を社会で検証するプロセスなので、「社会全体で支える」という意識が必要だと思うのです。研究者個人としての価値基準だけで行動していると、だれも大規模な検証をする手伝いをしてくれなくなってしまう。社会自体の意識変革が不可欠なのではないでしょうか。小野 それとリスクに対する考え方ですね。日本のロボット研究は相当にいいレベルにあるのですが、最後の一線が安全性なのです。ロボットメーカーが製品化で二の足を踏んでいるのは、もしも事故が起きたとき、どのくらいの責任を負わなければいけないのか、それはすべて製造者の責任なのか、ということなのです。臨床治験とちょっと似たところがあるような気がしたのですが、リスクはその提供者のみが全面的に負わなければいけないのか、提供された側あるいは社会がある合意の上でリスクを分担していくと考えるのか。そこがまだないものだから、ロボットが普及しないのです。ロボットの治験が進まないのです(笑)。
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