Vol.3 No.4 2010
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−312−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)対談:臨床医学研究とシンセシオロジー司会 アメリカで医学系の基礎研究がすごく盛んになり、その後にトランスレーショナル・リサーチということが言われ出したと思うのですが、それは遺伝子絡みの研究が起きたからでしょうか。口 遺伝子解析で応用研究の可能性を持ったものが出てきたという、大きなブレークスルーがありました。遺伝子の学問があそこまで行かなかったら、バイオ系の研究にあまり大きな変化をもたらさなかったかもしれません。司会 要素還元的な解明がものをつくることにつながるレベルまで解明できるようになった、それがかたや物理学の素粒子という世界であり、医学の場合はそれが遺伝子だと思うのです。メカニズムのエレメントとしてそこまで解明できたので、いろいろなアイデアが出てくるようになってきたということですね。口 どうやったら臨床研究のほうへもっと迅速に流せるのか。トランスレーショナル・リサーチと声高に言われるようになった背景には、それが確かにあります。しかし、精神疾患の多くや、糖尿病などの慢性疾患、生活習慣病的なものは、環境と遺伝子の両方が関与している領域ですから、もっと複雑系です。臨床研究の推進を実現するために必要なこと司会 基礎研究から臨床研究へ移っていく重要性は社会的には理解されているけれども、日本の場合、トランスレーションする部分の教育がないことや、研究者のマインドに課題があるということですね。では、同じ研究者が基礎研究から臨床研究に移る、あるいは基礎的な研究をしている医者が臨床研究に移るということについて抵抗はあるのでしょうか。口 関心はあると思いますが、そこに携わろうとすると自分の本業はそっちのけでやらないといけません。特に、研究者が応用編のところに出ていくのは難しいですから、チームが必要です。研究者がクリニカル・トライアルズのところまで自ら関与するということはおそらく難しいので、共通したマインドを持った研究者と実際の臨床家と、その間に介在する、治験でいえば我々が言うところのCRC(Clinical Research Coordinator)などを中心にチームをつくって動いていかないと難しいでしょうね。 小野 それは国研や独法研究所の役割になってくるのでしょうか。口 そう思います。大規模な研究所と病院とを持っているナショナルセンターがそれに一番フィットするので、そういう中でチームを組んで、それぞれの役割を果たす人たちが共同して関与するというやり方が求められるでしょう。それはぜひやりたいと、ナショナルセンターは表明しています。大学は一つの研究室単位で動いているのでちょっと難しいかもしれません。研究所でプロダクトをつくり、それを実際に臨床で検証するという、スタートからゴールまでを一貫してやれる機関はそんなに多くはないでしょうね。小野 製薬会社が非常に大きな資本を持っていれば、研究から臨床までデザインできるし、大規模臨床研究が行えるということですね。 口 日本の製薬メーカーの研究所は研究能力が高いし、非常にアイデアのいいコンパウンドを自分たちでつくるのだけれども、それを国内で検証できない。全部海外に持って行き、逆輸入しているのが現状です。司会 製薬メーカーから見て日本国内で治験をするためのバリアがあるのでしょうか。口 日本の治験のシステムは時間とコストがかかるということでしょうか。例えば、新しい薬をアメリカへ持っていったら半年でファーストステップが終わるのに日本では2年かかるとなると、アメリカでファーストステップを終わらせ、逆輸入することになります。市場も、日本の人口が1億何千万人、中国は13億人、インドも11億人の世界です。そういうことから、国内の開発を手控えて海外へという流れが出てきているのです。治験の空洞化は大きな問題です。もう一つ、医療機関のキャパシティが非常に小さい。例えば、100例の症例の治験をやろうとすると、日本はたぶ赤松 幹之 氏
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