Vol.3 No.4 2010
55/74
−310−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)対談:臨床医学研究とシンセシオロジー小野 今の基礎医学と臨床医学というお話は、我々の第1種基礎研究と第2種基礎研究に似ているような気がします。純粋基礎研究は夢があり、夢を達成した人はノーベル賞をもらえることもあるし、研究費もそこそこついてきます。しかし、その成果が現実の産業界で製品になり、社会に使われるようになるまでには時間的・技術的なギャップが非常に大きい。社会的価値を実現するためには、分析的手法だけでなく構成的・統合的手法が必要であると考えています。口 第2種基礎研究が応用研究と呼ばれるものだとすると、臨床研究で動物モデルや病的細胞を使う研究はそこに位置付けられると思います。実際に人を対象として検証していく大規模臨床研究は「製品化研究」に近いですね。私は、世の中に出していくところの研究が足りないと考えています。例えば、抗がん剤一つとってみても、動物にがんをつくって、この薬を使ったらがんが消えましたということが証明できたとしても、それが人のがんで果たして本当に効くのか、副作用は出ないのかということを必ず試してみないと薬にはなりません。司会 人間を使って治療の効果があるかを確かめるという意味では、疾患指向型研究のカテゴリーになるのでしょうか。病気のメカニズム解明に近いのでしょうか。口 メカニズム解明とはちょっと違うアプローチかもしれません。人を対象にしていても、病態研究と治療研究があります。例えば、アルツハイマー病の病態を研究するためには、昔は死後の脳の組織を顕微鏡で見ることしかできませんでした。しかし、現在は、画像技術の進歩によって、生きている患者の脳画像を見ることができるようになり、それを用いてアルツハイマーの病態を研究することが可能になっています。これは人を対象にした病態研究ですが、まだ治療研究ではありません。治療研究になってくると、これはほとんど臨床研究の範疇です。司会 病態研究までは、ある疾患という自然現象を対象にしたメカニズムを解明するわけですから、第1種基礎研究に近いのでしょう。それを治療に変換するところが第2種基礎研究に変わるところなのでしょうね。病態研究から治療への橋渡しをするTMC小野 医学の世界では、一人の研究者は病態研究だけ、あるいは治療研究だけを行うのでしょうか。それとも病態研究から治療研究まで一貫してすることはあるのでしょうか。口 両方あります。国立精神・神経センターの神経研究所の例で申し上げますと、筋ジストロフィーという疾患は遺伝する病気で、ようやくジストロフィンという遺伝子が見つかりました。それから十数年経って、どういう異常蛋白ができて筋肉が萎縮していくのかということが見えてきたのですが、同じ研究者が治療研究までつなげようとしています。司会 口先生から見せていただいた日本の臨床研究のデータをみて気になるのは、インパクトファクターの高い基礎医学研究4誌(2000~2005年)における日本の発表論文数は世界4位なのに、臨床医学研究3誌では8位で論文数も少ないですね。口 基礎研究で素晴らしい論文が積み上がっていても、臨床のほうに応用編が一向に出てこない。最終的に人に役立つものとして出てこないとおかしいではないかという認識は強まっています。産総研さんと共通した認識がそこにはあるのだろうと思うのです。当センターは、病院と二つの研究所から構成されていますが、かつて研究所はもっぱら基礎研究を中心に展開しており、日々の臨床を行っている病院との間にほとんど接点がありませんでした。しかし、独立行政法人化を機に、「基礎研究から応用研究を経て臨床研究」をやろうではないかという認識がこの5、6年の間にできあがり、その要としてトランスレーショナル・メディカルセンター(TMC)が平成21年にスタートしました。TMCでは、精神・神経・筋・発達障害分野の臨床研究についてトランスレーショナル・メディスン推進のため、研究と臨床を結びつけること、治験や臨床研究を推進することが重要とされています。口 輝彦氏
元のページ