Vol.3 No.4 2010
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研究論文:SiC半導体のパワーデバイス開発と実用化への戦略(荒井)−260−Synthesiology Vol.3 No.4(2010)パワーデバイスであり、現在のシリコン半導体のパワーデバイスでは、デバイス構造の工夫により性能の向上が図られてはいるものの、シリコンの物性値から予測される理論限界に近付いている。パワーデバイスの重要な性能指標は低損失であることで、そのためには低オン抵抗(通電時の抵抗が低いこと)と高スイッチング速度が求められている。シリコンに比べバンドギャップが約3倍大きなSiCワイドギャップ半導体では絶縁破壊電界がシリコンに比べ約1桁大きいために、オン抵抗の理論限界値は2桁以上小さい。シリコンでは、スイッチング速度が遅いもののオン抵抗を下げられるパワーデバイス(IGBT)が開発されているが、その適用範囲は限られる。広い使用耐電圧域で低オン抵抗と高速スイッチングの実現が可能なSiCパワーデバイス(MOS-FETや接合FET)は、シリコンパワーデバイスのこの制約を軽減する。低オン抵抗と高速スイッチングによりデバイス動作時の電力損失が抑えられ、放熱機構(放熱フィンやファン)の小型化や簡略化とともに、高周波化による受動部品の小型化によりインバータ等のパワーエレクトロニクス機器の大幅なコスト削減が期待でき、省エネに寄与する。電力変換器(以降、変換器という)の高パワー密度化(すなわち小型化)は変換器を社会に導入するに当たっての重要な指標であり、ロードマップの示すところである(図2)。加えるに、SiCパワーデバイスの持つ高耐電圧性、高温動作や高破壊耐性は、パワーエレクトロニクス機器の新しい応用分野を開くものと期待できる。徹底した省エネルギーを支える「ユビキタスパワーエレクトロニクスの実現」のためには、SiC素子の実用化が極めて重要な役割を果たすものと考えられる。2.2 電総研時代(1993年~2000年)の目標材料研究は物質科学としての探究に止まらず、広義のデバイス化によって原理的優位性を明確にし、実用化を目指すべきである。SiC、GaNおよびダイヤモンドの電子デバイスとしての可能性を精査し、研究対象と目標の絞り込みを図った。そして「ワイドバンドギャップ半導体の中で、 GaN(HEMT)横型デバイス低損失・高周波・大電流ヘテロエピ基板SiC(MOSFET, JFET)縦型デバイス低損失・高耐圧・大電流大型バルク基板VS : 飽和ドリフト速度EB : 絶縁破壊電界MJ=(EB・ VS)2/4π2 (Johnson指数)半導体の性能指数 :ダイヤモンド 5.6GaN 2.63C-SiC 3.06H-SiC 3.04H-SiC 3.5Si 0.3[MV/cm]遮蔽不要冷却不要各種エンジン制御原子力制御 ・ 監視地熱利用、石油探査宇宙探査機、人工衛星放射線利用(医療 ・ SOR)衛星通信・放送(進行波管の固体化)マルチメディア(移動体通信基地局)電力のグローバルネットワーク次世代高速交通システム電気自動車OA機器電源小型化超高周波動作超低損失2000600300ダイヤモンドSiC GaN Si 1101001000超高温動作ワイドバンドギャップ半導体の世界-ハードエレクトロニクス-絶縁破壊電界・ 機器応用実証への展開(産業界との共研)・ ウエハベンチャー(LLP)の設立・ GaNデバイスの並行開発・ 産業界からのシニア人材の参画・ デバイス作製ラインの構築 ・ SiCパワーデバイス・機器の可能性の明確化 (ウエハ品質、デバイス低損失&信頼性、機器高パワー密度)・ 実証・基盤・先行研究並行展開・ トータルソリューション戦略 (ウエハ―デバイスー機器並行開発)・ 国内におけるSiC基盤技術の構築・ NEDOプロジェクト 立ち上げ・ 目標の明確化 →パワーデバイス(SiC素子試作ライン)(2008~2011)・ 産業変革研究イニシヤティブ基盤技術開発(2009~2012年度)・ 次世代パワーエレクトロニクス(2006~2008年度)・ 「パワーエレクトロニクスインバータ基盤技術開発」(各2002、2004、2003~2006年度)(モジュール、電源、システム)・ 産総研委託3課題(2003~2005年度)・ 省エネルギー提案公募2課題(1998~2002年度)・ 「超低損失電力素子基盤技術開発」・ 調査研究(1994~1995年度)及び 先導研究 (ハードエレクトロニクス)(1996~1997年度)産総研エネルギーエレクトロニクス 半導体ラボ (2008.4~)産総研パワーエレクトロニクス研究センター(2001.4~2008.3)電総研 材料科学部(1993~2001.3)・ 国際交流・連携組織特記事項主たる成果目標主たる活動図1 ハードエレクトロニクス(ワイドギャップ半導体の世界)ワイドバンドギャップ半導体では、絶縁破壊電界が大きく飽和移動速度も大きい。そのため半導体の性能指数がシリコン半導体デバイスに較べ、桁で大きくなる。SiCパワーデバイスの通電損失はSiの1/200になると推測される。表1 活動の流れ
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